外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

14.意外な再会

「久しぶりじゃないっすか!どうしてここに?いや、それよりも助けてくださいよ!こいつらよってたかって俺を痛めつけてくるんすよ!」


 俺の姿を認めたキツネが嬉しそうに声をあげた。




 思わず頭を抱える。




「すいません、何があったのかは知りませんがきっとこいつが悪いんだと思います。じゃあ僕はこれで」


「ちょちょちょ、そりゃないっすよ!リューさん!俺とあんたの仲じゃないっすか!」


 踵を返して立ち去ろうとするとキツネがすがりついてきた。




「なんだよ、あんたらやっぱり知り合いだったのかよ。だったらこいつがやったイカサマの弁償をしてくんねえかな」


「そうだそうだ!この野郎、俺たちをカモにしやがって!」


「へっ!ばれなきゃイカサマじゃねえっての!騙されたてめえらが悪いんだよ!いいか、ここにおわすリュー様はなあ、あのシエイ鉱山の鉱殻竜を倒したほどの強さなんだぜ。てめえらそんな御方にケンカを売ろうってのかよ!」


 俺がいることでキツネが俄然調子に乗り出した。




「はあ~~~~~~~~」


 思わず盛大なため息が出てしまう。


 なんでこんなところでこいつと出会ってしまったんだ?




「なあ、あんたらこいつにいくらやられたんだ?」


「銀貨十枚だ!この野郎、一月分の稼ぎを騙し取りやがって!」


「わかったわかった」


 いきり立つ男たちをなだめながら俺は革袋を取り出した。




「フィルド王国の貨幣だけどこれなら十分だろ。これで勘弁してくれないか」


 そう言って金貨を一枚男たちに投げる。




「マ、マジモンかよ?こんだけありゃあ十分どころかお釣りが来るぜ!」


 男たちは驚いたように金貨を見つめ、確かめるように歯を立てた。




「あ~あ、もったいない。そんな金があんなら俺に任せてくれりゃ倍にするのに」


 後ろでキツネがぼやいている。


 お前はちょっと黙ってろ。




「それで充分ならここは俺の顔を立ててこれでチャラってことにしてくれないか?」


 俺の言葉に男たちは顔を見合わせ、にやりと強欲な笑みを浮かべた。




「なあ、あんた結構持ってそうだよな。だったらちいっと俺たちに融通してくんねえか?なあに、後でちゃんと返すからよ」




「はあ~~~~~~~~」


 再び俺は盛大なため息をついた。




「なあ、いいだろ?断らねえ方がいいぜ?こう見えて俺たちはこの辺じゃちいとばかり顔が効く方でよ。あんただって痛い思いをするくらいなら革袋の紐を緩めた方が良いと思うよな?」


 男の一人が馴れ馴れしく肩を組んでくる。




「悪いけどあんたらに付き合う気はないんだ。さっさと消えてくれないか」


 俺の言葉に肩を組んでいた男の腕に力がこもる。


「もう少し物わかりが良いと思ってたんだけど仕方がねえな。力づくでも言うことを聞いてもらうぜ」








   ◆










「で、なんでこんなところにいるんだ?」


 俺はキツネに尋ねた。


 路地裏には先ほどの男たちがうめき声をあげながら転がっている。


 何日間か体のあちこちが痛むだろうけど命に別状はないはずだ。




「それはこっちの台詞ですぜ!そっちこそなんでこんなところまで?…まさかあんたもあれが目的で?」


「あれ?あれってなんだ?」




 俺の言葉にキツネがキョロキョロと辺りを見渡した。


「ここじゃ不味い、もっと落ち着いた場所で話すからついてきてくんな」


 そう言って俺の手を引くと更に路地裏へと入っていった。








「で、話ってのはなんなんだよ?」


「それなんだけどさ、あんた本当に知らないのかい?」




 ロッジァン名物羊肉の串焼きを口いっぱいに頬張りながらキツネが聞き返してきた。


 ここは路地裏にある小さな居酒屋で、キツネの話が始まったのは散々飲み食いした後だった。


 こいつ、絶対俺にたかる気だな。


 とはいえこの居酒屋は食べ物も酒も絶品だったからあまり怒る気にもなれない。


 特に肉料理と香辛料の使い方がべらぼうに上手く、知らず知らずのうちに酒が進んでしまう。




「だからそれは何の話なんだよ…」


 そこまで言ってキツネがもの言いたげにこっちを見ているのに気付いた。




「…わかったよ」


 軽くため息をつきながらキツネの方に金貨を一枚転がす。






「へへっ、毎度!」


 キツネは嬉しそうに金貨をしまうと顔を近づけて小声で話し始めた。






「この街に来て何か気付いたことはねえか?」




「気付いたこと…?そういや兵士の数が多いのは気になってたな」


「それよ!」


 キツネが指を鳴らした。




「まだはっきりとしたことはわかんねえんだけどさ。なんでも近々ベルトラン軍がワールフィアに侵攻するって話なのよ」


「侵攻!?ベルトランがワールフィアに!?」


「バ、馬鹿!声がでけえって」




 キツネの話は俄かには信じられなかった。


 一体何のためにベルトランが?


 俺の頭にフェリエやワールフィアの難民たちの顔が浮かんでくる。


 ようやく奴隷狩りの脅威が去ったというのに、今度は戦争で逃げ惑うことになるのか?
 いや、その前にヘルマはこのことを知っていたのか?


 様々な考えが頭をよぎってまったくまとまらない。




「ベルトランはなんでそんなことをするんだ?」


「そこまでは知らねえよ。ただベルトランとワールフィアの国境沿いはいつも小競り合いが起きてるからさ。いよいよ業を煮やしたんじゃねえのかな」


 確かにフォージャスもゴブリンに苦しめられていた。


 ああいう場所が幾つもあるなら治安のために攻め込もうと考えてもおかしくない。




 一つだけ確かなのはこの情報がフィルド王国にとっても重要だということだ。




「噂を聞き付けた冒険者たちがおこぼれに預かろうと集まってきてるんだけど、お宅もそうなんじゃないの?」


「あ、ああ…まあそんなところだよ」


 俺はむにゃむにゃとごまかしながら席を立った。




「おかげで良い話が聞けたよ。こいつはお礼だ」


 そう言ってもう一枚金貨をキツネに投げた。




「毎度!リューさんは話が早いから助かるぜ」


「じゃあ俺はこれで帰らせてもらうよ。また縁があったら会おう」


 俺はキツネと別れを告げて宿へと戻った。


 急いでリンネ姫に知らせないと。



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