外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

8.キリ

「ったく、なんで俺様がこんなことを」


 マフィドがぶつくさ言いながら戦斧を肩に担ぎ、ゆっくりとキリに向かって近づいていった。


 明らかに舐めている。




「なあ、決闘をすると言ったが大丈夫なのか?明らかに体格に差がありすぎるのではないか?」


 ソラノが不安そうに聞いてきた。


「いや、それは大丈夫だ。あんな図体だけがでかい奴にキリが負けるわけがないさ」


 事実、決闘が始まってからキリはマフィドを圧倒していた。


 重いだけで大振りするしかない戦斧などキリにとっては扇風機代わりにもならない。


 戦斧をかわすと足下に潜り込み、棍棒で脛を強かに殴りつける。


「いでえ!」


 思わすしゃがんだマフィドのその顔面にキリの棍棒が振り下ろされる。


 兜がなかったらその時点でマフィドは絶命していただろう。




「クソ、このガキ!ちょこまかしやがって!」


 マフィドは頭から血を流しながら怒りの形相で襲い掛かるがキリに触れることすらできなかった。


 それも当然だ。キリは俺が鍛え、トロブに来た後もアマーリアやソラノに稽古をつけてもらっていたのだ。


 最近ではグランの村で戦士に交じって稽古もしている。


 数の暴力にものを言わせていた奴隷狩り如きが敵になるわけがない。






「こ、この、野郎…」


 三十分も経たないうちにマフィドは全身から汗をかき肩で息を切らしていた。


 対してキリは息一つ乱していない。




「これで終わらせる」


 キリが棍棒を構えて襲い掛かる。


 だが絶体絶命のその時でもマフィドは慌てていなかった。


 それどころか、かすかにほくそ笑んですらいる。


 怒りに囚われたキリはそれに気づいていない。




「待て!それは罠…」


 叫んだが遅かった。




「馬鹿が」


 マフィドが手甲を強く掴んだ。


 手甲の隙間から噴き出した液体がキリの顔を襲う。




「あああああっ!!!」


 キリが顔を押さえてのたうち回った。


 手の隙間から赤くただれた傷が見える。


 酸だ。あの野郎、酸を仕込んでいやがった!




「このクソ野郎!」


 怒りで席から立ち上がった俺だったが、その瞬間に動きを止めた。


 いや、止めざるを得なかった。


 ヘルマが俺の喉に剣をあてていたからだ。




「外からの支援は厳禁だと言ったはずだぞ」


 その声と視線にはわずかの躊躇いもない。


 構わずに動いたら気付くことなく斬り裂かれてしまう、体がそう理解していた。




「クソ!」


 俺は声を荒げて席に座り直した。






「ガキが。今までさんざん好き勝手しやがって!」


 マフィドが酸によって視力を失ったキリを乱暴に蹴り飛ばした。


「ぐふっ!」


 蹴りをまともに受けてキリが吹き飛んだ。


 手にしていた棍棒が地面に転がる。




「こうなったらてめえも終いだな。すぐには殺さねえ。仲間が見てる前で嬲りものにしてやらあ」


 マフィドは地面に転がっていた棍棒を拾うと遠くに投げ捨て、残忍な笑みを浮かべた。


「殺す!殺す!殺す!殺す!」


 キリはやみくもに手足を振り回したがそんな攻撃が当たるわけもなかった。


 マフィドの拳が、足がキリに襲い掛かる。


 クソ、俺はただ見てるしかないのかよ!




「テツヤ、来るぞ」


 その時ソラノが耳打ちをしてきた。




「なあ、ヘルマ。ちょっと夕日が眩しすぎてよく見えないんだ。日除けを作ってもいいか?」


「?まあ、それは構わないが。くれぐれも決闘している相手への支援は厳禁だからな」


「分かってるって。ちょっと周りを覆うだけだよ」


 俺はそう言って周りの土を操作して背後に円弧状の壁を作り上げた。


 高さは…五メートルもあれば充分かな。




「ずいぶん高い壁だな」


 ヘルマがそれを見て呆れている。




「この位あった方が日除けには丁度良くてね。あっちで見ているフェリエたちの分も作るけどいいよな?」


 そう言って俺は少し離れていた場所で観戦していたフェリエたちの周りにも同じような壁を作った。




「支援は駄目だけど声援だったら良いよな?」


「ああ、魔法の詠唱でないのならば幾ら声をかけても構わない」


 ヘルマが頷いた。


 よし、これで言質は取ったぞ!






「キリ!来るぞ!」






 うずくまってマフィドの攻撃に耐えていたキリが俺の声を合図にこちらへ跳ねた。


 同時に闘技場に突風が襲い掛かってきた。


 突風は乾燥したベルトランの大地に積もった砂ぼこりを巻き上げる。


 風は俺が作った二つの壁の隙間によって指向性を持ち、闘技場へ向かって吹き込んでいく。




「ぐわっ!目、目が!」


 突風による砂嵐をまともに受けたマフィドが顔を押さえてうずくまった。


「キリ!正面十メートルだ!」


 俺の言葉を合図にキリが駆けだした。


 助走をつけてマフィドの顔面を蹴り飛ばす。




「ふぎゃあっ!」


 のけぞるマフィドの眼窩にキリの拳がめり込んだ。




「ぎえええぇぇえっ!!!」


 絶叫するマフィドに馬乗りになり、キリは拳を浴びせ続けた。




「ま、待った、参った、参った、助け、助けてくれええっ!!!」


 闘技場にマフィドの絶叫が響き渡った。










「そこまでだ!」


 どれほどの時が経っただろう、ヘルマが終了の号令を発してもキリはマフィドを殴り続けていた。




「キリ、もう終わった、終わったんだ!」


 俺は闘技場に降りて後ろからキリを羽交い絞めにした。


 キリは尚も攻撃しようともがいている。




「そいつはもう死んでるよ。キリの復讐は成功したんだ」


 俺の言葉にキリはハッと我に返って足元を見つめた。


 そこには顔面を完全に粉砕されて絶命したマフィドが転がっていた。




「よくやったな、キリ。よくやったよ」


 俺はキリを抱きしめた。




「う、うう……うううう、うわあああああああああっ!!!」


 キリは俺の胸の中で声を限りに泣いていた。



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