外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

37.謀略の終焉

「な、何故貴様がここにいる!?何故追いつける!?」


 ベンズが顔を引きつらせている。




「そんな薄のろにおいていかれると思ってたのかよ!」




 俺たちはベンズの乗る魔導鉄騎竜と並走、いや並空していた。


 乗っているのは魔導鉄甲騎士を材料にした即席のロケットだ。




 その推進力は…アマーリアとフラムだ。




 鋼鉄で出来たノズルをフラムの炎魔法で加熱し、そこにアマーリアが水魔法で水を投入する。


 水は急熱すると水蒸気に変わり、その時に体積が爆発的に増加する。


 これが水蒸気爆発だ。




 俺が作ったロケットは水蒸気爆発を推進力に飛んでいた。


 浮遊自体は俺の土魔法で行い、更にソラノの風魔法で空気の抵抗を極限まで減らしている。


 魔導鉄騎竜がどれだけ速いと言ってもこの速度には敵わない。






「馬鹿な!ありえない!ありえない!ありえないいいいいい!!!!!」


 ベンズが絶叫した。


 魔導鉄騎竜が首を捻り、俺たちへ炎のブレスを吐いてきた。




「させない」


 フラムが炎魔法でそれを捻じ曲げる。




「クソ!クソ!クソ!もっと早く飛べ!このポンコツ!」


 ベンズはなりふり構わず魔導鉄騎竜を飛ばした。


 稼働限界を超えているのかビシビシと嫌な音を立てている。




 ほっといてもいずれ墜落するかもしれないけどこっちも限界が近い。




「アマーリア、フラム、俺が合図したら最後に特大のを頼む!」


「「了解!」」




 俺はロケットのノーズコーンを上空へ向けた。


 魔導鉄騎竜を遥か見下ろす位置まで上昇したところで方向を反転させる。


 当然目標は魔導鉄騎竜だ。




「今だ!!!!」


 俺の合図でアマーリアとフラムが盛大な爆発を起こした。


 強烈なGと共にロケットが魔導鉄騎竜に向かって突っ込んでいく。




「ひいいいいいいいいいいっ!!!!!」




 ベンズの絶叫と共にロケットが魔導鉄騎竜に衝突した。


 激突する寸前に俺たちはロケットから脱出した。


 アマーリアとフラムは俺が抱えている。




 防御魔法を持った魔導鉄騎竜でもロケットの運動エネルギー全ては防ぎきれず、地面に向かって落下していった。


 落下地点は目論見通り誰もいない荒野だ。


 衝突で吹き飛ばされたベンズはソラノが確保している。




 地を割るような轟音と共に魔導鉄騎竜は鋼鉄の残骸に成り果てた。




 ベンズは泡を吹いて完全に気絶している。




「これで一件落着だな」






 俺たちは大地に降りて笑顔を交わした。


 地平線には太陽が昇り始めていた。








    ◆








「アクダルモ候が全てを話したよ」


 そう言ってリンネ姫は軽いため息をついた。




「カドモイン候亡き後の一連の事件は全てベンズとアクダルモ候が描いていたものらしい。アクダルモ候とワンドに直接の面識はなかったようだがワンドがこの国を掌握した時はアクダルモ候もワンドに協力する手はずとなっていたようだ」


「そうだったのか…」


 俺は息を吐くとソファに背中を預けた。


 ここは王城にあるリンネ姫専用の応接室だ。


 あれから俺は事件の報告と後始末のためにゴルドに滞在していた。




「しかしアクダルモ候がよく喋ったもんだな」


「魔法尋問で隠し事ができる者などおらぬよ」




 リンネ姫はそう言って剣呑な笑みを浮かべた。


 怖え。




「アクダルモ候や領地はこれからどうなるんだ?」


「本来は御家取り潰しとなるところだが流石にこうも立て続けに不祥事が起こっては治安に響きかねんからな」


 リンネ姫が困ったように息を吐いた。




「アクダルモ候は家督を譲り渡した後に諸侯の資格を抹消して引退、アクダルモ商会は解散でケリをつけることになったよ」


 全て繋がってるとはいえこうも事件が頻発すると国威に関わるということか。




「そういうことだな。きれいごとだけでは国を維持するのは難しいということよ」


 リンネ姫は自嘲するように笑った。




「そういえばベンズの方はどうなったんだ?」




「…奴なら死んだよ」


「え?」


 リンネ姫の言葉は耳を疑うものだった。


 あのベンズが死んだ?




「同じように魔法尋問にかけようとしたら突然のたうち回り、全身から血を吐いて死んでしまったらしい。おそらくワンドが何らかの処置を施していたのだろうな」


「尋問で自分のことを吐かれないように、ということか」


 リンネ姫が頷いた。




「結局奴の口から聞くことは叶わなかったがアクダルモ邸の隠し部屋にあった奴の部屋から証拠として十分な文書が見つかったらしい」


「じゃあこれで本当に一件落着という訳か」


「ああ、ワンドが企み、ベンズが後を引き継いだ王国転覆計画もこれで全てのケリがついたと言えるだろう」


 リンネ姫が大きな伸びをした。


「お主には本当に世話になった。この恩はいずれ必ず返そう。私の名にかけて約束する」
「いや、別にいいよ。俺だってみんなの世話になったんだ。おあいこだよ」


「全く、相変わらず欲のない奴よ。まあそれがお主の魅力でもあるのだがな」


 リンネ姫はそう言って微笑んだ。






「じゃあこれで俺も無事帰れるってことだよな」


「いいや、まだだ」


 立ち上がろうとした俺をリンネ姫が押し留めた。


 俺の肩を掴みにこやかに微笑んでいるが目は笑っていない。




「お主に頼んでいたマットレス、あれはどうなったのだ?」




 やべえ、色々あってすっかり忘れてた。




「あ、あの…色々ありまして…」


「そう言えばお主には王城に銭湯を作ってもらうつもりだったのも忘れていたよ。これはしばらく残ってもらうしかあるまいな?」




「いや…俺にも領地の仕事が…」


「そんなものホランドがいるではないか。なあに一か月でも二か月でも残っていていいのだぞ?」


「俺に恩を返すという話、あれは…」


「それはそれ、これはこれだ。ボーハルトのマットレス制作の宣伝にもなるから良いではないか」


「そ、そんなあ~」



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