外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

33.大捕物!

 夜通し続いた宴も終わり、みな酔いつぶれて眠り込んでいた。


 エルニックも酒瓶を抱えて高いびきをかいている。




 そんな中に動き出す影があった。




 影の人数は三人、辺りを窺うように慎重に動いている。




 その影は静かに倉庫の扉を開けると地下から持ち帰ったあとで厳重に保管してあった鉄喰蟲てつはみの外殻を運びだした。


 そして外殻を全て荷車に移すと月明かりを頼りに鉱山を抜け出して去っていった。






「どうやら上手くいったみたいだな」


「そのようですね」


 高台の上からその様子を遠巻きに見ていた俺とテーナは笑みを交わした。


 俺は鉱山の中で見つけた鉄喰蟲てつはみの卵の殻を外殻そっくりに変え、敢えて見つけたと触れ回ったのだ。


 外殻に変えたのは鉄喰蟲てつはみの卵の殻が見つかったと知られるわけにはいかなかったからだ。


 そして読み通りさっそく盗み出す者が現れた。


 あの偽の外殻には追跡用の魔晶を埋め込んである。


 あとはそれを追いかけるだけだ。








    ~ それから一週間後の夜 ~










「ふむ、これは見事な鉄だ。これほどの物は我が領土でも採掘できぬな」


 アクダルモが感心しつつも忌々しそうな声をあげた。


 アクダルモの目の前には巨大な鉄の塊が幾つも並んでいる。


 どれも一週間前にフェバグ鉱山から盗まれたものだ。




「これほどの鉄喰蟲てつはみの殻はフェバグ鉱山と言えどもなかなか採れるものではありませんぞ」




 この鉄を持ってきた仲買人が揉み手をしてアクダルモに愛想笑いをした。




「ふん、忌々しいが奴らの鉄は一級品なのは認めるしかあるまい。だがそれも終わりだ。やがてあの鉱山やまは私のものになるのだからな」


 鉄の値段を下げて利益を出させなくし、フェバグ鉱山から鉄を盗み出して干上がらせたうえで鉱山自体を安く買い叩く、これがベンズから提案されたフェバグ鉱山買収計画だった。


 今の所その計画は順調に進んでいる。


 いずれ向こうの方から買ってくれと泣きついてくるだろう…






「全員動くな!」






 突然倉庫の扉が開け放たれた。


 アクダルモがギョッとして振り返るとそこには武装した一団がずらりと並んでいた。




「こちらは王立治安部隊である!資源盗難及び違法売買のかどで全員拘束する!」




 宣言と共に治安部隊が倉庫の中になだれ込み、中にいた者は全員抵抗する間もなく拘束された。




「ば、馬鹿な!これは何かの間違いだ!」


 両腕を抱えられながらアクダルモは顔を真っ赤にして抗議した。




「アクダルモ候、話はあとでお聞きます。今は大人しくついてきてください」


 しかし治安部隊長クロックマンは顔色一つ変えない。




「これは正当な取引だ!いいか!私は抗議するぞ!これは諸侯に対する侮辱行為だ!」




「残念ながらその言い訳は通らぬよ」


 背後から聞こえてきた澄んだ声にアクダルモの身体がびくりと震えた。




「そ、その声は……王立調査隊のアマーリア…殿か?」


 王国全域に渡って犯罪や魔獣の調査を行う王立調査隊についてはアクダルモもよく知っていた。


 いや、アクダルモにとって最も警戒すべき相手が王立調査隊だった。




「フェバグ鉱山から採ったばかりの鉄喰蟲てつはみの殻が盗難に遭ったと報告があってな。治安部隊と協力して捜査をしていたのだ」


 アマーリアはそう言いながら倉庫に並んでいた鉄喰蟲てつはみの殻に近づいた。




「フェバグ鉱山では盗難が続発していたために追跡用の魔晶を埋め込んでいたらしい。そしてその魔晶が発する波動を追ってきたらここに着いた、というわけだ」


 その言葉にアクダルモの顔が真っ赤になった。




「ば、馬鹿な!あり得ない!ここに来るまでに何も仕込まれていないと調べ……っ」


 慌てて口を押えたがもう遅かった。




「語るに落ちたようだな」


 アマーリアが軽くため息をついた。




「今回使った魔晶はそこらの魔導士が発見できるものではない。まあそれもいずれわかることだ。とりあえず家宅捜査はさせてもらおう」




「だ、駄目だ駄目だ!」


 アマーリアの言葉に今度はアクダルモの顔が真っ白になった。


 滝のように汗が流れだす。


 今屋敷を捜査されてはベンズを匿っていたことが明るみに出てしまう。


 そうなったら盗難や違法取引どころの罪ではない。


 それだけは避けねばならなかった。




「諸侯の屋敷を捜査するのは事前に通達が必要なはずだ!これはれっきとした法令違反だ!」


「通常であれば、な」




 アマーリアがアクダルモの顔を覗き込んだ。


「諸侯が現行犯逮捕された場合に限り事前の通達は必要ない、これも法令に則っていることだ」




 その瞬間、アクダルモは全てを悟った。


 はなからそれが目的だったのだと。


 がくりと膝を落とす。


 己の描いていた野望が目の前で崩れていくのが見えた。




「連れていけ!」


 クロックマンの言葉にアクダルモは両腕を抱えられるようにして連行されていった。




「さて、こちらは完了したな」


 連行されていくアクダルモを見送るとアマーリアは空に向かって魔法を放った。




 花火のように煌びやかな水の魔法が月の光を浴びて空を彩る。




「私もテツヤたちの加勢に向かうかな」


 そう言うとアマーリアは馬に飛び乗った。



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