外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
25.鍵はアンシャラザード
「なるほど、アンシャラザードか…」
リンネ姫が唸った。
「知っているのか?」
あの後俺たちはフィルド王国へと戻り、こうしてリンネ姫に事の次第を説明しているのだった。
「もちろん知っているとも。ベルトラン帝国の中で我が国と一番近い交易都市だ。ベルトランから我が国に来る物資は必ずそこを通ると言っていい」
「じゃあやっぱり…」
「まだ確証は持てん。ベンズが流した武器が巡り巡って鉱山を襲った連中に辿り着いたという可能性もある」
それもそうか。
結局連中から詳しい話を聞くことはできず、あの剣の出どころはわからずじまいだった。
ヘルマに頼んで尋問をする時間を貰えば良かったな。
「だがある意味で進展はあったとも言えるぞ」
「そうなのか?」
「ああ、アンシャラザードというのが鍵になる。テツヤ、お主にも働いてもらうぞ」
「それはもちろんさ。それはそれとして……」
俺はリンネ姫を見下ろした。
「なんで俺の膝の上に乗っているんだ?」
そう、リンネ姫は俺の膝の上に腰かけ、首に腕を回して俺の報告を聞いていたのだ。
おかげで凄く説明しにくいんだけど。
そしてテーブルの上には砂時計が置かれ、アマーリアとソラノが砂の落ちる様子を食い入るように見ている。
「何を言うか。一週間以上留守にしておったのだぞ。こうでもせんとテツヤ分が補給できんではないか」
俺はビタミンか何かなのか?
「リ、リンネ姫様!砂が落ちましたよ!次は私の番です!」
「何を言っている。砂時計をひっくり返してから膝に乗るまで少しタイムラグがあったではないか。その分がまだだ」
「そ、そんなあ~」
「もう好きにしてくれ」
俺はため息をついた。
なにはともあれやっぱりトロブに戻ってくるとほっとする。
いつの間にかここでの暮らしにすっかり馴染んでいたみたいだ。
「ところで働くって何をするんだ?」
「それは後のお楽しみじゃ。とりあえず出発の用意をするのだ」
ようやく膝から降りたリンネ姫がいたずらっぽく笑った。
◆
その日の夜、俺は正装してパーティー会場にいた。
横には同じく豪華に着飾ったリンネ姫がいて俺と腕を絡ませている。
「こ、これは一体…」
「しっ、説明したであろう。今は大人しく私をエスコートするのだ」
「しかしまさかいきなりこんなことを…」
「しっ、本命が来たぞ。アクダルモ候のお出ました」
リンネ姫の言葉に前を見ると押し寄せる人々を軽くあしらいながらこちらに来る人の姿が見えた。
今回のパーティの主催、エドワルド・アクダルモ候だ。
俺は緊張で背中をこわばらせた。
脳裏にここへ来るまでの間に聞いたリンネ姫の説明が蘇ってきた。
「アンシャラザードはベルトランの交易都市であるために我が国から行く人間は限られている」
アクダルモ領へ飛んでいる途中でリンネ姫はそう説明した。
「いや、むしろフィルド王国のアンシャラザード交易は一人の男が支配していると言ってもいいだろう」
それはエドワルド・アクダルモ候だ、とリンネ姫は続けた。
「アクダルモ候はカドモインに次ぐ諸侯だったのだがカドモイン亡きあと急速に力を付け、今や王家に次ぐ勢力となっている。旧カドモイン領も三分の一がアクダルモ領に併合されたのだ」
「つまり、アンシャラザードで息をかけることができるのはそのアクダルモって諸侯だけということか?」
「可能性は高いだろうな。少なくとも調べる価値はあるだろう」
そう言ってリンネ姫がこちらを向いた。
「運よくちょうどアクダルモ候からパーティーの招待が来ていてな。なのでこうしてお主らにも来てもらったというわけだ」
こうして俺たちはパーティー会場にいるのだった。
アマーリアとフラムはリンネ姫の護衛ということで同じように着飾って傍らに控えている。
一見すれば美女に囲まれているという構図になっているせいなのかさっきからパーティー参加者の好奇の視線が痛いけど俺としてはそれどころじゃなかった。
まさか怪しんでいる相手の懐の中に飛び込むことになるとは、この姫様はやることが大胆過ぎる。
「これはこれはリンネ姫殿下、ようこそお越しくださいました。我がパーティーもこれでようやく完成とあいなりましたぞ」
アクダルモ候が顔をほころばせながら近寄ってきた。
豪華に着飾り肩まで届く髪もきちんと整えてはいるけど隠し切れない軽薄さが漂っている。
「アクダルモ候、今日はお招きいただき感謝します。久しぶりのパーティーを楽しませていただきますわ」
リンネ姫が聞いたことのないような甘い声で答えた。
吹き出しそうになるのを何とか堪えているとハイヒールの踵で思い切り足を踏まれた。
「どうぞどうぞ、みなリンネ姫の登場をお持ちしていて私の顔など誰も見ていませんでしたぞ。さっきからリンネ姫はまだかと聞かされっぱなしで今だに耳鳴りがする始末です」
「まあ、お上手ですこと」
「ではこちらへ」
アクダルモ候が腕を出したがリンネ姫は微笑んでそれを固辞した。
「アクダルモ候はこちらのテツヤ殿をご存じですか?今日は旧カドモイン領を受け継いだ諸侯同士で親交を深めるためのパーティーだとお聞きしました。このテツヤ殿もその一人なのですよ。ですのでみなさまに紹介するために来ていただいたのです」
なるほど、そういう口実で俺を連れてきたわけね。
というかそういうパーティーがあったのか。全く知らされていなかったんだが。
「おや、そうでしたか。いや、カドモイン領は広いですからな。全ては把握しきれておりませんで申し訳ありません。テツヤ殿、無礼をお許しください」
アクダルモ候は白々しく驚きながら愛想笑いを浮かべて挨拶をしてきたがその眼は全く笑っていない。
どうやら俺を快く思っていないのは確かなようだ。
「いえ、まったく気にしていませんよ。姫様、それでは参りましょうか」
俺はアクダルモ候に軽く挨拶をするとリンネ姫の手を引いてパーティーの人混みの中へ入っていった。
リンネ姫が唸った。
「知っているのか?」
あの後俺たちはフィルド王国へと戻り、こうしてリンネ姫に事の次第を説明しているのだった。
「もちろん知っているとも。ベルトラン帝国の中で我が国と一番近い交易都市だ。ベルトランから我が国に来る物資は必ずそこを通ると言っていい」
「じゃあやっぱり…」
「まだ確証は持てん。ベンズが流した武器が巡り巡って鉱山を襲った連中に辿り着いたという可能性もある」
それもそうか。
結局連中から詳しい話を聞くことはできず、あの剣の出どころはわからずじまいだった。
ヘルマに頼んで尋問をする時間を貰えば良かったな。
「だがある意味で進展はあったとも言えるぞ」
「そうなのか?」
「ああ、アンシャラザードというのが鍵になる。テツヤ、お主にも働いてもらうぞ」
「それはもちろんさ。それはそれとして……」
俺はリンネ姫を見下ろした。
「なんで俺の膝の上に乗っているんだ?」
そう、リンネ姫は俺の膝の上に腰かけ、首に腕を回して俺の報告を聞いていたのだ。
おかげで凄く説明しにくいんだけど。
そしてテーブルの上には砂時計が置かれ、アマーリアとソラノが砂の落ちる様子を食い入るように見ている。
「何を言うか。一週間以上留守にしておったのだぞ。こうでもせんとテツヤ分が補給できんではないか」
俺はビタミンか何かなのか?
「リ、リンネ姫様!砂が落ちましたよ!次は私の番です!」
「何を言っている。砂時計をひっくり返してから膝に乗るまで少しタイムラグがあったではないか。その分がまだだ」
「そ、そんなあ~」
「もう好きにしてくれ」
俺はため息をついた。
なにはともあれやっぱりトロブに戻ってくるとほっとする。
いつの間にかここでの暮らしにすっかり馴染んでいたみたいだ。
「ところで働くって何をするんだ?」
「それは後のお楽しみじゃ。とりあえず出発の用意をするのだ」
ようやく膝から降りたリンネ姫がいたずらっぽく笑った。
◆
その日の夜、俺は正装してパーティー会場にいた。
横には同じく豪華に着飾ったリンネ姫がいて俺と腕を絡ませている。
「こ、これは一体…」
「しっ、説明したであろう。今は大人しく私をエスコートするのだ」
「しかしまさかいきなりこんなことを…」
「しっ、本命が来たぞ。アクダルモ候のお出ました」
リンネ姫の言葉に前を見ると押し寄せる人々を軽くあしらいながらこちらに来る人の姿が見えた。
今回のパーティの主催、エドワルド・アクダルモ候だ。
俺は緊張で背中をこわばらせた。
脳裏にここへ来るまでの間に聞いたリンネ姫の説明が蘇ってきた。
「アンシャラザードはベルトランの交易都市であるために我が国から行く人間は限られている」
アクダルモ領へ飛んでいる途中でリンネ姫はそう説明した。
「いや、むしろフィルド王国のアンシャラザード交易は一人の男が支配していると言ってもいいだろう」
それはエドワルド・アクダルモ候だ、とリンネ姫は続けた。
「アクダルモ候はカドモインに次ぐ諸侯だったのだがカドモイン亡きあと急速に力を付け、今や王家に次ぐ勢力となっている。旧カドモイン領も三分の一がアクダルモ領に併合されたのだ」
「つまり、アンシャラザードで息をかけることができるのはそのアクダルモって諸侯だけということか?」
「可能性は高いだろうな。少なくとも調べる価値はあるだろう」
そう言ってリンネ姫がこちらを向いた。
「運よくちょうどアクダルモ候からパーティーの招待が来ていてな。なのでこうしてお主らにも来てもらったというわけだ」
こうして俺たちはパーティー会場にいるのだった。
アマーリアとフラムはリンネ姫の護衛ということで同じように着飾って傍らに控えている。
一見すれば美女に囲まれているという構図になっているせいなのかさっきからパーティー参加者の好奇の視線が痛いけど俺としてはそれどころじゃなかった。
まさか怪しんでいる相手の懐の中に飛び込むことになるとは、この姫様はやることが大胆過ぎる。
「これはこれはリンネ姫殿下、ようこそお越しくださいました。我がパーティーもこれでようやく完成とあいなりましたぞ」
アクダルモ候が顔をほころばせながら近寄ってきた。
豪華に着飾り肩まで届く髪もきちんと整えてはいるけど隠し切れない軽薄さが漂っている。
「アクダルモ候、今日はお招きいただき感謝します。久しぶりのパーティーを楽しませていただきますわ」
リンネ姫が聞いたことのないような甘い声で答えた。
吹き出しそうになるのを何とか堪えているとハイヒールの踵で思い切り足を踏まれた。
「どうぞどうぞ、みなリンネ姫の登場をお持ちしていて私の顔など誰も見ていませんでしたぞ。さっきからリンネ姫はまだかと聞かされっぱなしで今だに耳鳴りがする始末です」
「まあ、お上手ですこと」
「ではこちらへ」
アクダルモ候が腕を出したがリンネ姫は微笑んでそれを固辞した。
「アクダルモ候はこちらのテツヤ殿をご存じですか?今日は旧カドモイン領を受け継いだ諸侯同士で親交を深めるためのパーティーだとお聞きしました。このテツヤ殿もその一人なのですよ。ですのでみなさまに紹介するために来ていただいたのです」
なるほど、そういう口実で俺を連れてきたわけね。
というかそういうパーティーがあったのか。全く知らされていなかったんだが。
「おや、そうでしたか。いや、カドモイン領は広いですからな。全ては把握しきれておりませんで申し訳ありません。テツヤ殿、無礼をお許しください」
アクダルモ候は白々しく驚きながら愛想笑いを浮かべて挨拶をしてきたがその眼は全く笑っていない。
どうやら俺を快く思っていないのは確かなようだ。
「いえ、まったく気にしていませんよ。姫様、それでは参りましょうか」
俺はアクダルモ候に軽く挨拶をするとリンネ姫の手を引いてパーティーの人混みの中へ入っていった。
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