外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

20.魔獣討伐

 翌朝、目覚めると既に多くの冒険者が準備を開始していた。


 寝ぼけ眼でスープと堅パン、フルーツというシンプルな朝食を受け取り、討伐の準備を進める。


 朝食を食べながら辺りを見ていると冒険者の中に討伐に出かけるそぶりを見せていない者が一定数いることに気付いた。


 ある冒険者は携帯した椅子に座って談笑し、別の冒険者は剣や鎧を磨いている。




「なあ、なんで出かける支度をしてない人がいるんだ?」


 俺は近くで片づけをしていた鉱山の職員に聞いてみた。




「ああ、討伐と言っても厳密に全員参加ではないんですよ。冒険者は軍隊ではないですからね。そりゃ功績のあった冒険者の方が報酬は高いですけど、終わり際だけ参加しようと思ってる人もいますね」


 なるほど、敢えて危険な道を選ばずに最後の美味しいところだけ持っていこうというのか。


「中には討伐に参加したという実績だけが欲しくて登録してる人もいますよ」


 ふーん、冒険者と言っても色々なんだな。




 とりあえず俺たちは朝食を終えて討伐の第一陣に加わることにした。


 人数は百人ほどだろうか、半数以上がまだ来ていないとはいえこれでもちょっとした勢力だ。


 討伐隊は鉱山の作業路を使って山腹を登っていった。






「よお兄ちゃん、あんた昨日ヘルマと何か話してたよな?」


 歩いていると横にいた狐頭の獣人が気さくに話しかけてきた。




「俺の名前はキツネってんだ。よろしくな」


「俺はテ…じゃなくてリュエシェ・タウソン、言いにくかったらリューとでも呼んでくれ。この二人は俺の仲間のフラムとキリだ」


「くぅ~、こんな美女二人を連れてるなんて羨ましいね!よっ色男!」


 キツネの口調は気さくというよりも馴れ馴れしくすらある。




「ところで話を戻すけどよ、ヘルマから何を言われたんだ?」


「何って、別に大したことは。フィルド王国の人間が何をしに来たと聞かれただけだよ」


「あんたフィルド王国から来たのか?だったらよ、フィルド王国で町一つ丸ごと消えたって噂を知らねえか?」




 ぎくり。




 ボーハルトのことは一応秘密になっているはずなのだが、やはり人の口には戸が立てられないということか。




「いや、そんな話は聞いたことないな。しばらく冒険者を休んでたから世間の噂に疎くってね」


 とりあえず知らないふりをしておこう。




「そうなのか、町の人間が一晩で消えたとか領主が化け物になって屋敷に行った人間が帰ってこないとか聞いたんだけど、よく考えたらそんなことあるわけねえか」


「そ、それよりもさ、今回の魔獣討伐について何か知ってたら教えてくれないか?なにせ昨日ベルトラン帝国に着いたばかりでよくわかってないんだよ」


「おいおい、事前の情報収集は冒険者の基本だぜ?あんた初心者か?」


 キツネが呆れたようにため息をついた。




「面目ない」


「しょうがねえなあ、冒険者にとって情報ってのは重要な財産であり商品なんだけど今回は出会った縁ってことでサービスしてやるよ」


 そう言ってキツネが顔を近づけてきた。




「いいか、今回の魔獣はただの魔獣じゃねえ。この世界でもっとも討伐難易度が高いと言われている鉱殻竜らしいんだ」


「鉱、殻竜?」


「それも知らねえのかよ!鉱殻竜ってのは竜の変種でよ、鉱物を食って自分の鱗にしちまう竜のことよ。そのせいでえらく防御力が高えんだ」




 そんな竜がいるのか。でもそれなら俺の土属性の力で何とかなるかもしれないな。


「鉱物で出来た鱗のせいで武器は歯が立たねえうえに竜だから魔法属性も桁違いなのよ。だからこうやって大規模討伐隊を組んで飽和攻撃をするしかねえってわけだ」


「そんなに難易度高いならなんで軍隊が出てこないんだ?」


「そこまでは知らねえよ」


 キツネが鼻を鳴らした。


「でもたかが鉱山の魔獣討伐に軍隊なんか出してられねえ、そっちでなんとかしろって肚なんじゃねえのか?ベルトランの帝王は冷酷無比って話だからな」


「なるほどね」


「でもあのヘルマが出てきたんだからちょっとは力を貸そうって気になったのかもな。そのおかげで俺たちの報酬は激減だろうけどな。あ~あ」


「そういやその報酬のことだけどさ、どうやって功績のある冒険者を調べるんだ?」


「そりゃ決まってるだろ。あそこにいる鉱山の連中だよ」


 そう言ってキツネは前方を歩いている制服を着た集団を指差した。




「でかい討伐には必ず観測官がいるんだよ。連中が功績のある冒険者を判断するって訳だ。今回はヘルマに持ってかれるんだろうけどな」


 なるほど、資金が投入される大規模討伐になるとそういった人間も必要になるんだな。


 俺たちはとりとめのない話をしながら乾燥して粉っぽい鉱山の道を登っていった。


 キツネは世界中を旅してきた冒険者でフィルド王国にも何度か行ったことがあるらしい。




「この世界に俺のコネが通用しない場所はねえよ。何かあったら俺様に相談するんだな」


 そううそぶいて胸を張っている。




「お、あそこが討伐の舞台になるみてえだぜ」


 キツネの言葉に前方を見ると坂を上りきったところでみんな足を止めていた。




「いよいよ獲物の登場だぜ」


 勇み足のキツネに遅れまいと坂を上っていった俺たちはその光景を見て絶句した。




 鉱殻竜が、そこにいた。



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