外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

9.敵襲来?

 テツヤたちが洞窟に入ってしばらくした後、森の中にある集落に一人戻る影があった。


「お頭、どこに行ってやしたんで?」


 屈強な男たちがその人物を迎え入れた。


「ケストレル、ニソス、バザード、あんたらちょっと蝙蝠窟に行っといで。そこから人が出てきたらここに連れてくるんだよ。必要なら他に何人か連れて行きな」


 その人物は近寄ってきた三人の男たちに素早く命令を下した。


「了解で」


 男たちは疑問を持つこともなくその命令を受け入れた。


「ついでにちょいと脅かしてやんな。なんならいつもみたいに金品をぶん捕ってもいいよ。でも危険だと思ったらすぐにやめるんだよ。ここに連れてくるのが第一だからね」


「合点承知」


 その言葉に男たちは目を光らせながら相好を崩した。


 上手くいけばちょいとした小遣い稼ぎになりそうだ。






「テツヤ、とか言ったかね。その実力確かめさせてもらうよ」


 男たちが去った後でその人物は不敵に笑みを浮かべた。








    ◆








「まずはそのバット・グアノを掘りだす人員の確保だな。旧カドモイン領各地へ送るための輸送手段も考えねば…」


 そんなのことを話しながら洞窟を出ようとした時、外に人の気配がすることに気付いた。


 しかも一人だけじゃなく複数人いる。




「みんなはここで待っていてくれ」


 みんなを待たせて俺は辺りを警戒しながら一人で洞窟の外に出た。


 殺気は感じない。




 洞窟を出るとそこには三人の男がいた。


 弓と短刀で武装していて様々な濃淡を持った緑色の布をパッチワークした生地で作ったフード付きのケープとズボンを身に着けている。


 まるで迷彩服だ。


 服越しにも屈強な体をしていることがわかる。




 軽装で防具は革製の胴当て、脛あて、手甲くらいしか身に着けていないけれど武器も防具も相当に使い込まれていて実戦経験豊富なことを伺わせる。




「何か用かい?」


 俺は努めて明るく答えた。


 まずは敵意がないことを示さないと。




「用だあ?てめえ、ここが誰の土地かわかってんのか?」


 真ん中の一番ガタイのいい男がいきなりドスの効いた声を張り上げた。


 前言撤回、少しでも攻撃の意思を見せたら排除することにしよう。




「いや、知らないなあ。おたくら知ってるのかい?」


「てめえ、ふざけてんのか!…と言いてえところだが俺も鬼じゃねえ。有り金だしゃあ痛い目には遭わさねえよ。とっとと出すんだな」


「なんであんたらに金を出さなきゃいけないんだ?」


「てめえ、この状況が分かってんのか?こっちは三人いるんだぞ?ったく、馬鹿なのか?通行料だよ、通・行・料!おら、さっさと出せよ」


 こいつら見た目と違って意外と悪い奴じゃないのかも。


 とは言えいきなり金を出せと言われてホイホイ出す気は毛頭ないんだけど。




「だからそれがわからないんだよ。なんで通行料をあんたらに払わなくちゃいけないんだ?」




 真ん中の男が盛大にため息をついた。


「ったく、本当はこんなことしたくねえんだが、拳でわからせるしかねえみてえだな」


 そう言ってボキボキと拳を鳴らしながら近づいてきた。




「てめえの物わかりのなさを恨むんだな」


 そう言って拳を振り下ろそうとした瞬間、おれはその男の足下の地面を操作してぎりぎり拳の届かない位置へずらした。


 男は拳が空を切った弾みで体勢を崩して盛大にすっころぶ。




「て、てめえ!」


 無様に転がった事実に気付いた男が顔を真っ赤にして立ち上がった。


 そして何度も拳を繰り出すがその度に地面を動かしたから俺には届かない。




「こ、この野郎…どうやら本気で怒らせたいらしいな」


 異常な事態に残りの男たちも身構えた。




「俺たちの本領は地上じゃねえ!見よ!」


 叫ぶなり三人は空中高く飛び上がり、樹上の中へと消えていった。


 そして音もなく放たれた矢が俺の足下に突き刺さる。




「くくく、森の中こそ俺たちが真の力を発揮する場所。高所を取られたことを悔やむんだな」




 囁くような笑い声が辺りに響き渡る。




「いや、そろそろ本題に入らせてくれ」




 言うなり俺は周囲に生えていた木を土ごと持ち上げた。




「う、うわああああっ!?」


 はたきを振るうようにバタバタと木を揺すると先ほどの男たちがぽたぽたと地面に落ちてきた。


 全員で六人いる。


 やっぱり元から木の上に潜んでいたか。


 気配でバレバレだったんだけどね。






 男たちを地面に落としてから木を元の位置に戻す。




「ば、化け物なのか…?」


 男たちの顔に恐怖が浮かんでいる。


「化け物とは心外な。それよりそろそろ話してもらおうかな。なんでこんな真似をしたのか」






「…す、すまねえ。これはあんたを試しただけだったんだ。そのことについては謝る。だから許してくれ」




 しばしの沈黙の後で男たちが口を開いた。


「試した?」


「ああ、実はあんたには俺たちの集落に来てもらいたいんだ。話はそこで頭に聞いてもらいたい」


「良いよ。案内してくれ」


 俺はあっさり承諾した。




「ほ、本当にいいのか?頼んだ俺が言うのもなんだが少しは怪しんだ方が良いんじゃないのか?」


 俺の言葉に男たちの方が驚いている。




「元々お宅らの本拠地に行くつもりだったんだ。強引に行くか誘われていくかの違いでしかないからね。ということでちょっと行ってくるよ」


 俺は洞窟の中から様子を見に出てきたリンネ姫一行に手を振った。




「こ、こりゃあ…?」


 美女ばかりが何人も洞窟から出てきたことに男たちが目を白黒させている。




「あんたらは運がいいぞ。あの方はこの国のお姫様なんだ。俺じゃなくてあの方にさっきみたいなことをしようとしたら今頃首と胴体が泣き別れしてたぞ」


 こっそり耳打ちをすると男たちがぎょっとして俺の方を見てきた。


「ほ、本当…なのか?」


「あの高貴な姿を見てわからないのか?まあ今は洞窟に入ってたからちょっと汚れてるけど」




「ひ、姫様を連れてくるとか、あんた一体何者なんだ…?」


「まあそれはおいおいね」


 俺は男の肩を叩くとリンネ姫の方へ向かっていった。




「そういうことだからちょっとお呼ばれしてくるよ」


「大丈夫なのか?」


 リンネ姫が心配そうに聞いてきた。


「ああ、多分そんなに悪い連中じゃなさそうだ。それにこういうのも領主の務めだろ?」


「まあお主なら大丈夫か」


 リンネ姫が苦笑しながらため息をついた。




「だが気を付けるのだぞ」


「ああ、わかってるよ」


 俺はリンネ姫にウィンクをすると男たちの方へ戻っていった。



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