外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

38.逆屋敷(リバースパレス)

 俺は重力に任せて下へ下へと落ちていった。


 着地する前に床を破壊し、ひたすらノンストップで落ち続ける。


 地下空間には照明が点在していたけど光が届かない先には広大な闇が広がっている。




 その闇の中から殺気が迫ってきた。


 襲ってきたのは巨大な顎をもった腐ったゴリラのような屍人グールだった。


「俺は一層の守護者、ドムイン様だ!貴様はここで殺っ」




 台詞を言いきる前にドムインの頭が潰された。


「危ないよ~ってもう聞いてないか」


 潰したのはリュースのハンマーだった。


 リュースが俺と同じように落下しながらついてきている。




「リュース!なんで来たんだ!」


「いや~、あたしもちょっと下にいる人に用があってさあ。ついでだからテツヤに付き合おうかなって」


「ったく、これ以上余計な手間はごめんだぞ」




 そんなことを言い合いながら俺たちはひたすら落ちていった。


「俺は二層の門番、ガマイン!ここで死っ」


 ガマインという名前の二体の上半身がくっついた屍人グールは俺が飛ばした一層目の床材に潰されて動かなくなった。


「悪いけどここで時間をつぶすわけにはいかねえんだ」






「俺は三層の管理者、ズロイッ」


 三層のズロイなんとかはリュースのハンマーと共に壁の染みとなった。


「俺は四層の!」


「五層!」


「六!」


「な!」


 落下しながらそれぞれの階層で待ち受けていた屍人グールを倒し、俺たちは最下層である八層へ辿り着いた。


 リンネ姫に渡したかんざしがすぐ近くにいることを告げている。




「ライトニング!」


 到着したと同時に光の呪文を唱える。


 そこは体育館ほどの広さを持った空間だった。


 分厚い柱が何本も立ち並んで天井を支えている。


 そしてその中央に鎮座した石の壁に鎖で両手を繋がれたリンネ姫の姿があった。


「リンネ姫!」




 駆け寄ろうとした俺の足が止まった。


 リンネ姫の傍らに一人の影が立っていたからだ。


 ワンドだ。


 しかしピクリとも動かない。


 死んでいる?


 ワンドからは生きた気配がしなかった。


 やがてその体がぐらりと揺れ、地面に倒れた。




「やれやれ、やはり他人の体というのはやりにくいのう」




 ワンドの後ろには別の影が立っていた。


 小柄なワンドよりも更に小さい。


 それは俺の腰までの背丈しかない老人だった。


 しかしその人物が恐ろしい脅威であると俺の勘が告げている。




「てめえが、本体か」


「いかにも、儂が本物のワンドじゃよ」


 その老人は得意げにうそぶいた。








 リンネ姫を捕らえていた石壁がワンドのすぐわきを通り、俺の元に引き寄せられた。


 拘束していた鎖を破壊してリンネ姫を自由にする。




「リンネ、無事か!」


「ん……テ、テツヤ、なのか?私は一体?ここは?」


 気を失っていたリンネ姫が目を覚ました。


「ここはカドモインの屋敷の地下だ。あのワンドって爺に攫われてここに来たんだ」


 俺の言葉にリンネ姫がハッとしたようにワンドへ目を向けた。


 しわくちゃなワンドの顔を見て体を抱えて身震いをする。




「ふむ、こんなに早く目を覚ますとは意外ですな。どうやらその魔具は相当強力な耐魔術式が組み込まれているようじゃな」


 ワンドが興味深そうに枯れ木のような指でリンネ姫のかんざしを差した。


「その魔具がなければ今頃儂の目的は果たせていたのですがのう」




 残念だと言っている割にその口調は愉快そうですらある。


「てめえ、リンネに何をする気だったんだ?」


「なにって、リンネ姫には儂の人形になってもらうのじゃよ」


 俺の問いにワンドは平然と答えた。


「人形だと?」


「そうじゃよ、儂の言うことは何でも聞く生きた人形にのう」


 そう言ってワンドは愉快そうに笑った。




 その言葉と同時にリンネを拘束していた鎖が針金へと姿を変えてワンドへ殺到する。


 しかし、ワンドを拘束するはずだったその針金はその直前で力なく地面に落ちた。




「なにっ?」


「ほっほっほっ、忙しない小僧じゃのう。ゆっくり話を聞く事もできんのか」


 驚く俺に満足そうに頷くワンド。


「てめっ…




 なおもワンドに攻撃をしようとしたが、それはリンネ姫に制止された。


「無駄だ。この男に魔法の類は効かぬ」


「この男を知ってるのか?」


 驚いた俺にリンネ姫は首を横に振った。


「直接知っているわけではない。だがボーハルトを覆いつくす魔力障壁やカドモインを操っていた屍人術、こんなことをできるのはこの世界広しと言えども一人しかおるまい」


 リンネ姫がワンドに向き直った。




「追放魔導士ことワンディラルド・ドミディラルド、それがお主の正体なのだな」



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