外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

24.宴の後で

 その日の晩はリンネ姫を招いての盛大な宴会が開かれた。


 今回も町の有力者がヨーデン亭に集まり、俺の頼みでグランにも出席してもらった。


 最初は渋っていたグランだったけど結局は俺に借りがあるからと参加してくれた。


 なんだかんだ言ってこの地方で一番影響力を持っているのはグランなのだからリンネ姫に顔を通しておいて損はないはずだ。


 宴会の後でリンネ姫が俺の屋敷へと押しかけてきて、そこで二次会が始まった。








「ふう……」


 ようやく二次会が収まり、みんなが静かになってから俺は庭のベンチに腰掛けて一息ついた。


 恐ろしい宴会だった。


 途中でグランとアマーリアが飲み比べを始めたは良いものの、二人とも度を超えた酒豪だから酒がなくなってしまい、勢い余って腕相撲を始めてあやうくヨーデン亭が半壊する所だった。


「テツヤが黄昏れているなんて珍しいな」


 振り返るとそこにはソラノがいた。


「座ってもいいか?」


 頷くとソラノが横に腰かけてきた。


「今日は元気がなかったみたいだな」


 ぎくり。


「いやあ、そんなことないぞ?ちょっと騒ぎ疲れただけだって」


「だったらいいんだ」


 ソラノがそんな俺を見て微笑んだ。


 …


 ……


 …………


「なあ、俺がやってきたことって良かったのかな?」


「?どういう意味だ?」


 俺の言葉にソラノは不思議そうな顔をした。




「…今日はこの町の道路にアスファルトを敷いただろ」


「ああ、みんな喜んでいたな。私もあれは素晴らしいことだと思うぞ。あんなに奇麗で平らな道路は初めてだ」


「俺が行った世界ではあれが普通だったんだ。でもこの世界では違う。確かに生活は便利になったかもしれないけど、本当にそれで良かったんだろうか」


「何故だ?生活が便利になるのは良いことではないのか?」


 俺は空を見上げた。


 見事な満月が俺たちを照らしている。


「確かにそうかも知れないけど、俺はこの世界に急な変化を与えすぎてるんじゃないかと思って。バニラも道路も、ゴルドで作ったベアリングも本来はこの世界では使われていなかったものだろ。俺一人がこの世界を大きく変えすぎてるんじゃないかと思ったらちょっとね…」


 俺はこの世界に不可逆的な変化をもたらしてるんじゃないだろうか。


 もしそれで取り返しのつかないことが起きてしまったら、俺はどうしたらいいんだろうか?


 みんながそれによって酷い目に遭うことになったら……


 そう考えると目の奥が暗くなり、鈍い痛みが響いてくる。






 不意に俺の頭が引き寄せられた。。


「ソラノ?」


 ソラノは俺の頭を肩に抱きよせ、頭を持たせかけてきた。


 ソラノの細く輝く金髪から柔らかな香りが漂ってくる。


「そんなことに悩んでいたのか」


 ソラノの声はいつも以上に優しく柔らかに響いてきた。


「テツヤは確か六年間その地球という所で暮らしていたのだったな」


 俺はソラノに頭を抱きかかえられながら頷いた。


「ゴルドの通りはどこも石畳が敷かれているだろう?あれはテツヤがこの世界にいた六年前にはほとんどなかったのだぞ」


「本当なのか?とてもそんな風には見えないけど」


「本当だとも。ゴルドは千年の歴史を持っているが現国王の勅令によって新たに敷き直したのだ。おそらく六年前にゴルドを見ていたらあまりの変化に驚いていただろうな」


 俺はソラノが何を言いたいのかわからず、黙って聞いていた。


「つまりだ、この世界の変化はテツヤだけが起こしているわけではないということだ。今回のアスファルトだっていずれ誰かが同じことを考えたかもしれない。遅いか早いか、誰が考え実行したかの差でしかないのだ」


「……でも」


「ええい!まどろっこしい奴だな!」


 ソラノが俺の頭を更にきつく抱いた。


「私が言いたいのはだ、私はテツヤが良い奴だということを知っている。みんなのためを思って行動していることもだ。だから私はテツヤを信じている。テツヤのすることもだ」
 だから、とソラノは続けた。


「やったことは時に思いもしない良くない結果を生むかもしれない。それでも私はテツヤが良かれと思ってやったのだと知っているしそれを信じている」


「だからテツヤ、自分の行動は誰かのためになっていると、少なくともここにそう思っている人間が一人はいることを覚えていてくれ」


 顔を上げるとソラノが俺を見ていた。


 真っ直ぐに見つめるその眼には何の迷いもない。


 心が晴れた気がした。


「ありがとうソラノ。なんだか楽になったよ。やっぱり少し悩んでたみたいだ。領主に任命されて少し気負ってたのかな」


 その時不意にソラノが唇を重ねてきた。


 柔らかで優しいキスだった。


 触れ合ったかと思うとすぐにソラノは唇を離した。




「一人で抱え込まなくていいんだ。もっと私たちを、いや私を頼ってくれ。私では頼りにならないかもしれないけど、悩みがあるならいつでもこうして慰めてやるから」


 ソラノの顔がかすかに朱く染まっている。


「じゃ、じゃあ、わ、私はこれで行くからな」


 ソラノがギクシャクと立ち上がる。


 俺はその手を引いて再び座らせた。


 そしてソラノを抱き寄せ、唇を塞いだ。


 最初は強張っていたソラノの体から徐々に力が抜けていくのを感じる。


 俺の背中に回されたソラノの腕が強く抱きしめてくる。


 俺も強く抱きしめ返した。


 やがて俺たちはゆっくりと唇を離した。


「ソラノがいてくれて良かった」


 本心からの言葉だった。


「私もだ。テツヤ、あなたががいてくれて本当に嬉しい」


 月明かりの中で俺とソラノは無言で手をつなぎ合っていた。



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