外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

22.慌ただしい帰還

 リンネ姫にバニラエッセンスを売り込むという本来の目的も果たし、俺たちはすぐにトロブへ帰ることになった。


 しかしここで計算外のことが起きた。


 リンネ姫まで一緒に行くと言い出したのだ。


 むろん断れるわけなどなく、俺たちの帰路にはリンネ姫と護衛の騎士隊十名が同行することになった。




「ほう、これは早いな!しかも大量の物資まで一緒に運べるとは!土属性とは存外便利な能力ではないか!」


 リンネ姫は荷台ごと宙を飛んでいることに驚きつつも喜んでいる。


「あんまりはしゃいで落ちないでくれよ。結構飛ばしてるからさ」


「この力があれば物流の革命が起こるぞ。タイムラグなしで物資を送れるようになれば間違いなく生活が一変するな!」


 俺の言葉などどこ吹く風だ。


「それにしても良かったのか?いきなりトロブに来たんじゃ姫様としての公務に差し障りが出るんじゃ?」


「それは余計な心配というものよ。そもそもトロブへは近々行こうと思って話を進めていたのだしな」


「そうなのか?」


「新任の領主がきちんと仕事をしているかチェックするのは王家として当然の責務だ。それにあそこへは個人的に前から行きたいと思っておったのよ」


 リンネ姫はそう言って胸を張った。


「それにしてもリンネっていろんな仕事をしてるよな。いずれ王位を継ぐために今からやっているって訳なのか?」


「いや、私は王位は継がんぞ」


 しかしリンネ姫は俺の言葉を否定した。


「そうなのか?」


「私には兄がいるからな。何事もなければいずれ兄が継ぐだろうよ」


 兄がいたのか!それは初耳だ。


「そういえば言っていなかったな。今は親善留学としてベルトラン帝国に行っているのだ。まあいずれ会うこともあるだろう」


 そうだったのか。しかしそれならそれで尚のこと姫という立場以上の仕事をしてることになるわけだけど。


「王国と言ってもフィルドは小規模だからの。王家と言えど家族経営の商人とやることは変わらんさ。商人は一人で立てるようになった時から商人だ、と言うように王家の人間は一人で立てるようになったら王家の人間としてやることをやるのよ」


 そ、そういうものなのか。王家と言っても結構大変なんだな。


「まあ私の場合趣味も入っているがの。いずれどこぞの名家の元に嫁ぐことになるだろうが、それまでは私の好きにさせてもらっているのだ。幸い父上と母上も理解してくれている」


 そう言ってリンネ姫は涼やかに笑った。


 嬉しそうに空からの景色を眺めている様子は普通の十代の女の子と変わらないけど年の割に大人びているのは王家として育ってきたからなのかもしれない。








     ◆






 一方その頃ソラノはというと同僚の騎士たちとの四方山話に花を咲かせていたのだった。


 ちなみにリンネ姫の護衛ということなので今回同行する騎士隊は全て女性騎士で構成されている。


「それでそれで、ソラノさんはあのテツヤ殿とどこまで進んでいるのかにゃ~?おたくら一緒に住んでいるんでしょ~?」


「男と女が一つ屋根の下、何も起こらないはずがないよねえ?」


「あのテツヤってのもちょっといかつい見た目してるけど割と男前だしねえ?眉の傷もセクシーだよねえ」


「ば、馬鹿を言うな!まだ何もない!」


「ちょっとちょっと、お聞きになりました~?まだ、ですってよ。つまりその気は存分にあるってことですわよ?」


「もうお風呂くらいは一緒に入ったのかしら?」


「あ、あれは不可抗力だ!」


「うそ、マジで一緒に入ったんだ?いや、まさかそこまで進んでるとは思ってなかったわ~」


「うう、ソラノに大人の階段を一歩先行かれてしまうなんて……あたしゃショックだよ」


「ち、違~~~う!」






    ◆






 大所帯でリンネ姫を連れているということもあり、初めて行った時ほどはスピードが出せなかったためにトロブに着いたのはゴルドを発ってから二日目の午後になってからだった。


 リンネ姫が来たことにヨーデンが卒倒しそうになっていたけどともかくリンネ姫一行はヨーデン亭に泊まってもらうことになった。


 あとでヨーデンさんに話を聞くと温泉をいたく気に入っていたらしい。


 今度俺がゴルドに来ることがあれば王城に温泉を掘らせるとも言っていたとか。


 ううむ、掘ったのは温泉ではなくて墓穴だったかもしれない。


 そんなこんなで一夜が明け、その日は朝からリンネ姫を伴ってトロブ地方の視察へ行くことになっていた。


 ちなみにアマーリアにはゴルド名産のウイスキーを一瓶お土産に持っていったらあっさり機嫌を直してくれた。






「テ、テツヤさん!」


 一人の村人が屋敷に飛び込んできたのはこれからリンネ姫を迎えに行こうとしている朝早い時だった。


 やってきたのは森で木こりをしているヨハンスだ。


「大変だ!森が呪われちまった!」



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