外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

15.土石流を防げ!

 俺は地面に意識を集中させた。


 思った以上に山の中に水が溜まっている。


 これは今すぐ何とかしないと!


 幸い水脈は山の西側に流れているものが多かった。


 俺は西側の水脈が地表に一番近づいているところを操作して山腹に穴を開けた。


 地下に溜まっていた水が凄まじい勢いで谷に流れていくのを感じる。


 しかし雨で緩んだ地盤が地下水の流出で崩れてしまうのも防がなくてはいけない。


 山全体に意識を集中して抑え込む。


「アマーリア、やってくれ!」


 俺の言葉にアマーリアが頷いた。


 アマーリアの魔力が地下を流れる水を操作していくのを感じる。


 まるで俺の全身が目の前の山になり、その中をアマーリアの意識が流れているような感じだ。


 しかし意識を広げているせいで気を抜くとすぐに意識を失いそうになる。


 これはランメルスと戦った時の比じゃないぞ。


 アマーリアも目を閉じ完全に意識を集中している。


 土砂降りの雨と暴風の中、俺たちはひたすら魔力を注ぎこみ、今にも崩壊しそうな山を抑え込んでいった。






 どれだけ時間が経っただろうか、雨は一向にやむ様子がない。


 地下の水は徐々に抜けていってはいるけど、まだまだ安心できる状態じゃない。


 俺もアマーリアも完全に疲れ切っているけどここで止めるわけにはいかなかった。


 その時、目の前の崖が突然崩れた。


 巨大な岩がこちらに向かって転がってくる。


 まずい!あの岩を止めようとしたら山のコントロールが!






「うおおおおおおおおっ!!!!!」


 獣のような吠え声と共に転がり向かってくる岩が止まった。


 そこにいたのはグランだった。


 直径十メートルはありそうな岩を背中で押しとどめている。


「手前らは手前らのやることに集中しろ!こっちの面倒は俺が見てやる!」


 助かった!


 心の中で安堵しながら再び山へと意識を向ける。


 しかし、凄まじい突風が襲ってきた。


 目の前に生えていた巨大なクスノキが根こそぎ折れてこちらに倒れ込んでくる。






「うりゃあああああっっ!」


 掛け声と共にそのクスノキを蹴り飛ばす影があった。


 その影の主は……キリだった。


「キリッ!?なんでここにっ?」


「ご主人様はキリが守る!」


 気が付けば突風が止んでいた。


「すまん、どうしても来ると言って聞かなかったのだ!住民は全員避難させたぞ!風のことは私に任せておけ!」


 その声に上空を見上げるとソラノが宙に浮かんでいた。


 風がやんだのはソラノのお陰だったのか!






 これで一安心、と思ったのもつかの間、アマーリアの体がぐらりと揺れた。


「アマーリア!」


 抱きとめるとアマーリアは青い顔をして震えていた。


 何時間も大雨と強風に晒されていたから低体温症になりかけている。


 このままだとアマーリアの命の方が危ない!


 その時、俺たちの周りの空気が不意に温かくなった。


 まるで冬の曇り空が急に晴れて日が差し込んだような、そんな柔らかな温かさだ。




 振り返るとグランのところにいた赤髪で褐色肌の少女が俺たちへ手をかざしていた。


 確かフラムという名前だったっけ。


 ひょっとしたらこの少女は火属性使いなのだろうか?


 ともかくフラムという少女のお陰でアマーリアの顔に生気が戻ってきた。


「すまない、少し意識が遠くなってしまったみたいだ。もう大丈夫だ」


 アマーリアが起き上がり、再び山に向かって意識を集中していった。


 俺もそれに続く。


 雨は少しずつ小降りになりはじめていた。








    ◆








 朝と共に嵐は去っていった。


 雲が晴れ、山の中にも日の光が差し込んできた。




「終わったか……」


 グランはようやく滑り落ちてくるのを止めた岩から体を起こすと背伸びをして辺りを見渡した。


 凄まじい光景だった。


 樹齢百年を超える巨木が何本もなぎ倒され、山腹はあちこちで土砂崩れを起こしている。


 村の被害も小さくはないだろう。


 おそらく何軒も風に飛ばされているはずだ。


 だが村人は全員無事だ。


 グランは目の前を見下ろした。


 そこには意識を失い寄り添いあうように倒れ込んだテツヤとアマーリアがいた。


 この二人がいなかったら村は、いやトロブの町すらどうなっていたのか。


 俺一人だったら一体何ができただろうか。




 二人の近くにはソラノとキリも倒れ込んでいる。


 テツヤたちが最後まで土石流を抑え込めたのはこの二人のお陰でもある。


 そしてもう一人。


「よくやったな」


 グランは近くに座り込んでいたフラムの頭に手をやった。


「…」


 フラムは軽く頷いてそれに答える。




「さてと、家に帰るとするか」


 グランは地面に倒れ込んでいる四人をまるで綿袋のように軽々と肩に担ぎあげた。


「テツヤ、か…まだまだひよっ子みてえな年の割に全く大した野郎だ」


 その口元は微かに笑っていた。



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