外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
12.アマーリアの頼み
グランとの殴り合いをしたあとで屋敷に戻ってきた次の日、アマーリアが思いつめた顔で俺の所にやってきた。
「テツヤ…すまない…こんな時に言うべきことでないのはわかっているのだが……」
な、なんだ?俺また何かしちゃったのか?
今までにしでかしたことを思いめぐらせていると突然アマーリアが両膝と頭を床につけた。
「頼む!風呂を作ってくれ!」
は?風呂?
「ゴルドを旅立って三日、もう我慢できないのだ!これ以上風呂に入らねば体が腐り落ちてしまいそうなんだ!」
あ、ああ、そういうことね。
確かにゴルドを発ってからドタバタしていたせいで風呂に入る時間がなかったかもしれないな。
無類の風呂好きで知られる龍人族にとって風呂に入れないのは耐えられないことなのだろう。
そう言えば以前テナイト村からゴルドへ行った時も二日に一回は風呂を用意していたっけ。
「むろんテツヤが言うのであれば三日と言わず一週間でも二週間でも耐えてみせる!だが、もし可能であるなら風呂を、どうか風呂を作ってはくれまいか!」
いや、言われるまでもなく風呂は作るよ、作りますとも。
でも部屋にトイレと風呂が付いてなかったっけ?
「あんなものを風呂と呼ぶのは龍人族の鱗にかけて許されん!」
あ、そうでしたね、はい。
ということで俺は屋敷に大浴場を作ることにした。
幸運にも一階の奥半分は使われていない物置になっていたからここを大浴場に改造しよう。
俺の力をもってすれば浴場を作ることなど造作もないことだけど、せっかくだから温泉にしてみたいな。
ということで浴場の地下をスキャンしてみると地下五百メートルほどに温泉脈が走っていることがわかった。
これならなんとかなりそうだ。
水圧に気を付けながら慎重に地下から温泉を通す穴を開けていく。
やがて源泉を溜めておくための取水槽にとろりとした緑色の源泉が噴き上がってきた。
噴き出した源泉は取水槽から水路を通って中間槽へ流れていき、それから湯舟へと流れ込んでいく。
「お、お、お……温泉だああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
アマーリアが服を脱いだかと思うといきなり湯舟に飛び込んだ。
「ば、馬鹿っ!それはまだ……」
「うぎゃああああ!あっ熱いいいいぃぃぃぃっ!!!」
アマーリアは飛び込んだ瞬間に全身を真っ赤させて飛び出し、床を転げまわった。
「…まだ水でうめてないから駄目だと言おうとしたのに」
俺はため息をついた。
「し、死ぬかと思った。あやうく茹で龍になるところだった」
湯船に浸かりながらアマーリアが深く息を吐いた。
「まったく、アマーリアは風呂のこととなると眼の色が変わるな」
「テツヤ、こ、こっちを向いたら殺すからな!」
ソラノが声を張り上げた。
「わかってるっての!というかそっちなんて向いてらんねえよ」
俺はというと、源泉が噴きだす取水槽と源泉を水でうめるための中間槽で苦闘していた。
噴き出した源泉は結構熱くて五十℃くらいあるからこれを井戸水でうめて四十二℃くらいにしなくてはいけない。
これが意外に面倒なのだ。
早いところ水量調整できる仕組みを作らないと。
すぐ近くを熱湯が通っているから汗まみれだ。
上半身裸になっているけど全く効果はない。
なので今は女性三人が風呂を楽しんでいる最中に同じ室内でそちらに背を向けつつお湯の調整をしている上半身裸の俺がいるという図になっている。
なんなの、これ?どういうことなの?
「て言うか、なんでソラノとキリも入ってるんだよ」
「そ、それは…私だって早くお風呂に入りたかったから……ブクブク」
ソラノがあぶくの音と共にもごもごと言い訳をしている。
「テツヤもこっちに来て一緒に入らないか?気持ちが良いぞ」
さっきまでの憔悴はどこへやら、アマーリアはすっかりご機嫌だ。
「だ、駄目だ駄目だ駄目だ!絶対にこっちを向くなよ!」
いや、もうこの状況だけで手一杯だから。
◆
「しかしここのお湯はゴルドの温泉とも少し違いますね。濃い緑色で少しとろりとしているような…」
ソラノが湯船のお湯を手で掬い上げて不思議そうな声を上げた、んだと思う。
俺からは見えないから想像でしかないけど。
「これは我が龍人族の間で緑泉と呼ばれている最高品質の源泉だな。まさかこのような地でこんなに良い温泉に巡り合えるとは」
アマーリアが嬉しそうに答えた。
「これは打ち身・打撲など外傷の他に経痛等万病に効果があって、浸かる度に一年寿命が延びると言われているほどだ。しかもそれだけでなく美肌になるとも言われているのだ」
「び、美肌ですか!」
アマーリアの説明にソラノが食いついてきた。
どの世界でも女性は肌に関心があるものらしい。
「うむ、龍人族の間で見目麗しい者のことを産湯が緑泉だったと言い表すこともあるくらいだぞ」
「ほ、ほう……」
「じゃあキリももっときれいになる?」
「ああ、なるとも。そのためには毎日風呂に入らんとな」
俺がのぼせそうになりながらお湯の調整をしている中、三人はのんびりとお風呂を堪能している。
くそう、振り返ってみたいがそれをすると今度こそ命がないかもしれん。
「…ふう、少し長湯をし過ぎました。私はこれで上がらせてもらいます。おいテツヤ、絶対にこっちを見るなよ」
「わかってるっての」
さざ波の立つ音がしてソラノが湯船から出た、のだと思う。
「あ……」
ソラノが息を呑む声がして、その直後に俺の背中に何か柔らかいものが降ってきた。
「ソラノ、急に立ち上がるとのぼせて危ないぞ」
アマーリアの声が聞こえる。
つまり、俺の裸の背中に当たっているこの柔らかな二つの物体は……
「……み、み、見るなあああぁぁぁぁっ!!!!」
背後からソラノの平手が俺のテンプルに命中し、俺はゆっくりと湯船の中に倒れ込んでいった。
当然源泉の制御は失われ、熱湯が噴水となって浴室に降りかかる。
「うわああああ、熱、熱!!」
「あちち、は、早く止めるんだ!」
「そ、そんなことを言われてもぉ!!熱!」
「に、逃げろ!」
あぁ…緑がきれいだなあ……
逃げ惑う三人の声を聞きながら俺はゆっくりとお湯の中に沈んでいった。
「テツヤ…すまない…こんな時に言うべきことでないのはわかっているのだが……」
な、なんだ?俺また何かしちゃったのか?
今までにしでかしたことを思いめぐらせていると突然アマーリアが両膝と頭を床につけた。
「頼む!風呂を作ってくれ!」
は?風呂?
「ゴルドを旅立って三日、もう我慢できないのだ!これ以上風呂に入らねば体が腐り落ちてしまいそうなんだ!」
あ、ああ、そういうことね。
確かにゴルドを発ってからドタバタしていたせいで風呂に入る時間がなかったかもしれないな。
無類の風呂好きで知られる龍人族にとって風呂に入れないのは耐えられないことなのだろう。
そう言えば以前テナイト村からゴルドへ行った時も二日に一回は風呂を用意していたっけ。
「むろんテツヤが言うのであれば三日と言わず一週間でも二週間でも耐えてみせる!だが、もし可能であるなら風呂を、どうか風呂を作ってはくれまいか!」
いや、言われるまでもなく風呂は作るよ、作りますとも。
でも部屋にトイレと風呂が付いてなかったっけ?
「あんなものを風呂と呼ぶのは龍人族の鱗にかけて許されん!」
あ、そうでしたね、はい。
ということで俺は屋敷に大浴場を作ることにした。
幸運にも一階の奥半分は使われていない物置になっていたからここを大浴場に改造しよう。
俺の力をもってすれば浴場を作ることなど造作もないことだけど、せっかくだから温泉にしてみたいな。
ということで浴場の地下をスキャンしてみると地下五百メートルほどに温泉脈が走っていることがわかった。
これならなんとかなりそうだ。
水圧に気を付けながら慎重に地下から温泉を通す穴を開けていく。
やがて源泉を溜めておくための取水槽にとろりとした緑色の源泉が噴き上がってきた。
噴き出した源泉は取水槽から水路を通って中間槽へ流れていき、それから湯舟へと流れ込んでいく。
「お、お、お……温泉だああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
アマーリアが服を脱いだかと思うといきなり湯舟に飛び込んだ。
「ば、馬鹿っ!それはまだ……」
「うぎゃああああ!あっ熱いいいいぃぃぃぃっ!!!」
アマーリアは飛び込んだ瞬間に全身を真っ赤させて飛び出し、床を転げまわった。
「…まだ水でうめてないから駄目だと言おうとしたのに」
俺はため息をついた。
「し、死ぬかと思った。あやうく茹で龍になるところだった」
湯船に浸かりながらアマーリアが深く息を吐いた。
「まったく、アマーリアは風呂のこととなると眼の色が変わるな」
「テツヤ、こ、こっちを向いたら殺すからな!」
ソラノが声を張り上げた。
「わかってるっての!というかそっちなんて向いてらんねえよ」
俺はというと、源泉が噴きだす取水槽と源泉を水でうめるための中間槽で苦闘していた。
噴き出した源泉は結構熱くて五十℃くらいあるからこれを井戸水でうめて四十二℃くらいにしなくてはいけない。
これが意外に面倒なのだ。
早いところ水量調整できる仕組みを作らないと。
すぐ近くを熱湯が通っているから汗まみれだ。
上半身裸になっているけど全く効果はない。
なので今は女性三人が風呂を楽しんでいる最中に同じ室内でそちらに背を向けつつお湯の調整をしている上半身裸の俺がいるという図になっている。
なんなの、これ?どういうことなの?
「て言うか、なんでソラノとキリも入ってるんだよ」
「そ、それは…私だって早くお風呂に入りたかったから……ブクブク」
ソラノがあぶくの音と共にもごもごと言い訳をしている。
「テツヤもこっちに来て一緒に入らないか?気持ちが良いぞ」
さっきまでの憔悴はどこへやら、アマーリアはすっかりご機嫌だ。
「だ、駄目だ駄目だ駄目だ!絶対にこっちを向くなよ!」
いや、もうこの状況だけで手一杯だから。
◆
「しかしここのお湯はゴルドの温泉とも少し違いますね。濃い緑色で少しとろりとしているような…」
ソラノが湯船のお湯を手で掬い上げて不思議そうな声を上げた、んだと思う。
俺からは見えないから想像でしかないけど。
「これは我が龍人族の間で緑泉と呼ばれている最高品質の源泉だな。まさかこのような地でこんなに良い温泉に巡り合えるとは」
アマーリアが嬉しそうに答えた。
「これは打ち身・打撲など外傷の他に経痛等万病に効果があって、浸かる度に一年寿命が延びると言われているほどだ。しかもそれだけでなく美肌になるとも言われているのだ」
「び、美肌ですか!」
アマーリアの説明にソラノが食いついてきた。
どの世界でも女性は肌に関心があるものらしい。
「うむ、龍人族の間で見目麗しい者のことを産湯が緑泉だったと言い表すこともあるくらいだぞ」
「ほ、ほう……」
「じゃあキリももっときれいになる?」
「ああ、なるとも。そのためには毎日風呂に入らんとな」
俺がのぼせそうになりながらお湯の調整をしている中、三人はのんびりとお風呂を堪能している。
くそう、振り返ってみたいがそれをすると今度こそ命がないかもしれん。
「…ふう、少し長湯をし過ぎました。私はこれで上がらせてもらいます。おいテツヤ、絶対にこっちを見るなよ」
「わかってるっての」
さざ波の立つ音がしてソラノが湯船から出た、のだと思う。
「あ……」
ソラノが息を呑む声がして、その直後に俺の背中に何か柔らかいものが降ってきた。
「ソラノ、急に立ち上がるとのぼせて危ないぞ」
アマーリアの声が聞こえる。
つまり、俺の裸の背中に当たっているこの柔らかな二つの物体は……
「……み、み、見るなあああぁぁぁぁっ!!!!」
背後からソラノの平手が俺のテンプルに命中し、俺はゆっくりと湯船の中に倒れ込んでいった。
当然源泉の制御は失われ、熱湯が噴水となって浴室に降りかかる。
「うわああああ、熱、熱!!」
「あちち、は、早く止めるんだ!」
「そ、そんなことを言われてもぉ!!熱!」
「に、逃げろ!」
あぁ…緑がきれいだなあ……
逃げ惑う三人の声を聞きながら俺はゆっくりとお湯の中に沈んでいった。
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