外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
1.リンネ姫の訪問
リンネ姫がアマーリアの屋敷にやって来たのはランメルスの反乱があってから一月ほど経ったある晴れた日だった。
メイドたちの間に俄かに緊張が走り、俺たちも姫を迎えるべく一緒に門で並んだ。
「テツヤはおるか」
リンネ姫は開口一番そう言った。
え?俺?
「おうよ、用があるのはお主じゃ」
リンネ姫はキラキラと輝くオパールのような瞳に笑顔を溢れさせながら答えた。
しかし…虹色に輝く白金のようなふわふわの髪に雪花石膏のような透き通った肌に思わず見とれてしまうような美しい顔立ち、軽く抱きしめただけで折れてしまいそうなほっそりとした体格からは想像もつかないような口調だな。
「姫は昔から将軍や学者と話をするのが好きでな。彼らの話し方が移ってしまっているのだ」
アマーリアが耳打ちしてきた。
なるほど、だから十代前半にしか見えないのに妙に大人びた口調なのか。
「おい、私はこう見えて十七歳だぞ。不敬罪で投獄されたいのか」
いえいえ、滅相もない。
しかしどう見ても十二か十三歳にしか見えないような。
そこで俺は姫の耳が普通の人間よりも少し尖って横に飛び出していることに気付いた。
そう言えばラウラ王妃はハーフエルフなんだっけ。
だとしたらリンネ姫にもエルフの血が流れているということか。
年のわりに幼く見えるのはそういうことなのだろうか。
「いや、姫の場合は単に発育が……」
アマーリアがリンネ姫の顔を見て言葉を止めた。
「いいからさっさと来い!」
どやしつけられながら俺たちは慌てて姫に続いた。
◆
「こ、ここは……」
俺が見上げた先には巨大な屋敷がそびえていた。
「さ、行くぞ」
「ま、待った!」
全く意に介さずに足を進めるリンネ姫を俺は必死に押しとどめた。
「ここがどこか分かってるんですか?」
「当然だとも。さっさと行くぞ」
「行くって、ここはあのベンズ商会の本館ですよ!?」
そう、俺たちがいるのは国家転覆に加担したとされているベンズ商会の目の前だった。
かつてはゴルドで一番勢いがあって門が擦り切れてしまうから明け放していると言われるほどだったが今では人が通る姿もなく、門も固く閉ざされている。
主であるヨコシン・ベンズは現在逃亡中で、ベンズ商会自体取り潰しになるのではないかと町中の噂だ。
「相手が姫様とはいえ今でも恨んでいる人がいてもおかしくないんですよ?そんなところにのこのこ入っていったらどうなるか…」
「何をごじゃごじゃ言っておる。大丈夫だから早く付いてくるのだ」
俺は頭を抱えた。
まさか温室で育てられた高級な花のようなお姫様がこんな性格だったとは。
ひょっとして塔から救い出した時に叫び声をあげなかったのは驚いていたのではなく単に肝が据わっていただけなのか?
しかし今は悩んでる暇はないみたいだ。
頼みの綱のアマーリアも仕事があると王城へ行ってしまっている。
俺は大急ぎでリンネ姫のあとを追った。
◆
「これはこれはリンネ姫様、ようこそお越しくださいました。事前に言ってくださればお迎えを手配しましたのに。ほらお前さん方、早く姫様にベルトラン産の特級茶をお出ししなさい」
しかし予想に反してベンズ商会の人間は下にも置かない態度でリンネ姫を迎え入れた。
いや、王国の姫がやってきたのだから歓待しない方がおかしいのだけど、自分の仇とも言える存在を迎え入れるというよりはまるで命の恩人がやってきたような態度だ。
「よい、今日は視察に来たのだ。我々に構わず業務を続けるのだ」
リンネ姫はにべもなくそう答えるとまるで勝手を知っているかのようにずかずかと進んでいった。
俺たちは屋敷の渡り廊下を通って離れというには豪華すぎる屋敷へとたどり着いた。
入り口は2人の衛兵が守っている。
衛兵たちはリンネ姫の姿を認めるとものも言わず扉を開け、俺たちが入ると再び閉ざした。
屋敷の中は静まり返り、俺とリンネ姫以外は誰もいないみたいだ。
俺たちは広々とした応接間へと入っていった。
リンネ姫はソファを見つけると無造作に飛び込んだ。
「姫様、なんでここに?」
「姫様はよせ。リンネでよい。公の場以外で姫様と呼ばれるのは背筋が痒くなるわ」
そう言って足を高々と上げて組んだ。
「で、では…リンネ、なんで俺をここに?」
想像を超えるリンネの性格に戸惑いながらも俺は尋ねた。
「ここはの、ヨコシンの邸宅よ」
「ここが?」
俺はそう言って辺りを見渡した。
ランメルスと共謀し、奴に武器を流していたベンズ商会の会長、ヨコシン・ベンズはここに住んでいたのか。
言われてみれば確かに大商人らしい見事な調度品ばかりだ。
「その通り。奴はここでランメルスと通じ、この国を簒奪しようと企てておったのだろうよ。叶わぬ夢であったがな」
リンネは肩をすくめた。
「しかし妙だとは思わんか?いくら帰還者であったとはいえランメルスは一地方の領主に過ぎん。そんな男がただの商人の協力で国家転覆を企むと思うか?」
リンネの言葉に俺の背筋が冷たくなった。
正直言うと俺もそれが腑に落ちない点だった。
そしてそこから導き出される答えは一つしかない。
俺の顔を見てリンネがにやりと笑った。
面白いおもちゃを見つけた子供のような顔だ。
「ランメルスを手引きし、ベンズ商会と引き合わせた人物がいるとは思わぬか?」
メイドたちの間に俄かに緊張が走り、俺たちも姫を迎えるべく一緒に門で並んだ。
「テツヤはおるか」
リンネ姫は開口一番そう言った。
え?俺?
「おうよ、用があるのはお主じゃ」
リンネ姫はキラキラと輝くオパールのような瞳に笑顔を溢れさせながら答えた。
しかし…虹色に輝く白金のようなふわふわの髪に雪花石膏のような透き通った肌に思わず見とれてしまうような美しい顔立ち、軽く抱きしめただけで折れてしまいそうなほっそりとした体格からは想像もつかないような口調だな。
「姫は昔から将軍や学者と話をするのが好きでな。彼らの話し方が移ってしまっているのだ」
アマーリアが耳打ちしてきた。
なるほど、だから十代前半にしか見えないのに妙に大人びた口調なのか。
「おい、私はこう見えて十七歳だぞ。不敬罪で投獄されたいのか」
いえいえ、滅相もない。
しかしどう見ても十二か十三歳にしか見えないような。
そこで俺は姫の耳が普通の人間よりも少し尖って横に飛び出していることに気付いた。
そう言えばラウラ王妃はハーフエルフなんだっけ。
だとしたらリンネ姫にもエルフの血が流れているということか。
年のわりに幼く見えるのはそういうことなのだろうか。
「いや、姫の場合は単に発育が……」
アマーリアがリンネ姫の顔を見て言葉を止めた。
「いいからさっさと来い!」
どやしつけられながら俺たちは慌てて姫に続いた。
◆
「こ、ここは……」
俺が見上げた先には巨大な屋敷がそびえていた。
「さ、行くぞ」
「ま、待った!」
全く意に介さずに足を進めるリンネ姫を俺は必死に押しとどめた。
「ここがどこか分かってるんですか?」
「当然だとも。さっさと行くぞ」
「行くって、ここはあのベンズ商会の本館ですよ!?」
そう、俺たちがいるのは国家転覆に加担したとされているベンズ商会の目の前だった。
かつてはゴルドで一番勢いがあって門が擦り切れてしまうから明け放していると言われるほどだったが今では人が通る姿もなく、門も固く閉ざされている。
主であるヨコシン・ベンズは現在逃亡中で、ベンズ商会自体取り潰しになるのではないかと町中の噂だ。
「相手が姫様とはいえ今でも恨んでいる人がいてもおかしくないんですよ?そんなところにのこのこ入っていったらどうなるか…」
「何をごじゃごじゃ言っておる。大丈夫だから早く付いてくるのだ」
俺は頭を抱えた。
まさか温室で育てられた高級な花のようなお姫様がこんな性格だったとは。
ひょっとして塔から救い出した時に叫び声をあげなかったのは驚いていたのではなく単に肝が据わっていただけなのか?
しかし今は悩んでる暇はないみたいだ。
頼みの綱のアマーリアも仕事があると王城へ行ってしまっている。
俺は大急ぎでリンネ姫のあとを追った。
◆
「これはこれはリンネ姫様、ようこそお越しくださいました。事前に言ってくださればお迎えを手配しましたのに。ほらお前さん方、早く姫様にベルトラン産の特級茶をお出ししなさい」
しかし予想に反してベンズ商会の人間は下にも置かない態度でリンネ姫を迎え入れた。
いや、王国の姫がやってきたのだから歓待しない方がおかしいのだけど、自分の仇とも言える存在を迎え入れるというよりはまるで命の恩人がやってきたような態度だ。
「よい、今日は視察に来たのだ。我々に構わず業務を続けるのだ」
リンネ姫はにべもなくそう答えるとまるで勝手を知っているかのようにずかずかと進んでいった。
俺たちは屋敷の渡り廊下を通って離れというには豪華すぎる屋敷へとたどり着いた。
入り口は2人の衛兵が守っている。
衛兵たちはリンネ姫の姿を認めるとものも言わず扉を開け、俺たちが入ると再び閉ざした。
屋敷の中は静まり返り、俺とリンネ姫以外は誰もいないみたいだ。
俺たちは広々とした応接間へと入っていった。
リンネ姫はソファを見つけると無造作に飛び込んだ。
「姫様、なんでここに?」
「姫様はよせ。リンネでよい。公の場以外で姫様と呼ばれるのは背筋が痒くなるわ」
そう言って足を高々と上げて組んだ。
「で、では…リンネ、なんで俺をここに?」
想像を超えるリンネの性格に戸惑いながらも俺は尋ねた。
「ここはの、ヨコシンの邸宅よ」
「ここが?」
俺はそう言って辺りを見渡した。
ランメルスと共謀し、奴に武器を流していたベンズ商会の会長、ヨコシン・ベンズはここに住んでいたのか。
言われてみれば確かに大商人らしい見事な調度品ばかりだ。
「その通り。奴はここでランメルスと通じ、この国を簒奪しようと企てておったのだろうよ。叶わぬ夢であったがな」
リンネは肩をすくめた。
「しかし妙だとは思わんか?いくら帰還者であったとはいえランメルスは一地方の領主に過ぎん。そんな男がただの商人の協力で国家転覆を企むと思うか?」
リンネの言葉に俺の背筋が冷たくなった。
正直言うと俺もそれが腑に落ちない点だった。
そしてそこから導き出される答えは一つしかない。
俺の顔を見てリンネがにやりと笑った。
面白いおもちゃを見つけた子供のような顔だ。
「ランメルスを手引きし、ベンズ商会と引き合わせた人物がいるとは思わぬか?」
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