外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

21.ベアリングを作ろう

 工房はドワーフギルド会館の裏手にあった。


 巨大な建物で、中では数十人のドワーフたちが一心不乱に鎚を振るい、ヤスリをかけている。


「みんな、手を休めてこっちに来てくれ!」


 ゲーレンが大声をあげるとみんなが一斉に手を止めてこっちにやってきた。


「こちらのお方はテツヤ殿だ。今までの仕事は一旦止めて今日からテツヤ殿の考案したこのベアリングというものの量産に入る。当然給金は今まで通り出すし責任は全て儂が持つから安心してくれ」


 そう言ってゲーレンはドワーフたちにベアリングを渡した。


 ベアリングをいじくりながら眺めていたドワーフたちの顔に先ほどのゲーレンと同じように驚きの表情が広がっていく。


 流石は職人たちだ。


「こいつは……どうやって作ったんで?」


 ドワーフの一人が尋ねてきた。


「実は俺は土属性のA級魔法戦士でこいつはその力で作ったものなんだ。でもみんなにはこれを道具で作ってもらうことになると思う」


「土属性?こんなものを作ることが可能なのか?」


「あり得ない。土属性といえば土を耕すくらいの能力しかないはずだが」


 ドワーフたちの中に驚きと疑いの声が飛び交っている。


 それも無理はないか。


「じゃあ実演してみるよ」


 そう言って工房に転がっていた鉄棒を拾い上げた。


 ベアリングをイメージした途端にその鉄棒が粘土のようにぐにゃりと歪み、瞬く間に新たなベアリングへと変わった。


「す、凄え!本当に変わったぞ!」


「とんでもない能力だ!あんな能力があれば俺たちの仕事なんか上がったりだぞ!」


 疑いの声があっという間に驚愕の叫びにかき消された。


「いやはや、私も初めて見ましたが凄いものですな」


 ゲーレンも驚いたみたいだ。


「我々ドワーフ族は多種族に比べて土属性の力を重用しておりますが、それだって畑を耕すのに便利とか鉱床を探すのに使っておる程度です。まさかこれほどのことができるとは」


 そうだったのか。


 確かに子供時代は土属性といえば不人気属性で土属性を持つくらいなら無属性の方がマシと言われるくらいだったけど。


「土属性はなかなか顕現しないうえに能力が限定的なのです。噂ではA級の土属性使いとなると国中探しても五指にあまるとかあまらないとか」


 そんなにレアな能力だったのか。


 やはり当たりを引いたみたいだ。


 俺は作り上げたベアリングを部品ごとにばらした。


「なるほど、内側の輪と外側の輪に入っている溝が鉄球のガイドになっているのか!」


「これは鉄球の位置がずれないようにするカバーか?よく考えられているな!」


 ドワーフたちが感心したように部品を手に持って確認している。


「しかし、これはどうやって鉄球を入れたらいいんだ?」


「テツヤさんは土属性で作れるから良いけど……」




「いや、これは手でも割と簡単に入るよ」


 俺は実際に実演してみせた。


 実はボールベアリングはコツさえつかめば分解しても簡単に組み立てることができる。


「なるほど!確かにこれならできそうだ!」


「しかし、これだけ簡単に組み立てられるということは壊れやすいということにならないか?」


 流石は優秀な職人集団のドワーフだ。


 即座にベアリングの弱点を見抜いている。


「リングは鍛造で作れるとして、問題は鉄球の作り方だな。これは正確な球状にする必要があるぞ」


 職人集団のリーダーと思われる男、―あとで聞いたらガドリンという名前だった―が顎をさすりながら考え込んでいた。


 流石ドワーフだけあってすぐに構造の肝を掴んでいる。


「それだったらこういう風に作れると思うんだ」


 俺は工房の中にある材料で即席の道具を作り上げた。


 二枚の円盤状になった砥石の間に鉄球を入れて上部の砥石を回転させる構造になっている。


「鉄球の大まかな形は鍛造で打ち出して、これで仕上げれば既定の大きさになるよ」


 そう言って砥石を回転させてみせた。


 鉄球が上下の砥石で挟まれて研磨されていき、歪だった形が徐々に真球になっていく。


「なるほど!これなら大きさが均一の真球がたくさん作れるというわけか!」


「しかもこれだったら魔法を使わずに道具だけで作れるぞ!」


「こんな単純で効果的な構造をどこで知ったんですか?」


 まさか動画サイトで見て知ったとも言えかったから曖昧な笑いでごまかした。


「あとこれの要は鉄球を一定のサイズで作ることなんだけど、それはこういうゲージを用意したらいいと思うんだ」


 そう言って二枚の鉄板で出来たトレイを作り上げた。


 どちらも底面に細かな穴が開いている。


「一つは基準のサイズで、もう一つは少し小さい穴になってるんだ。小さい穴を通ったらその鉄球は小さすぎで、基準の穴を通らなかったら大きすぎということだね」


「なるほど!これだったらいちいち鉄球のサイズを測る必要がないわけか!これなら大量生産も可能だぞ!」


「よし、野郎ども!大体の手順はわかったな!」


 ゲーレンが大声をあげた。


「だがまだ作るのは早い!今回の仕事で一番大事なのはこのベアリングとそれを取り付ける車輪と車軸の寸法を策定することだ!今後はその寸法に沿って作っていくし、他の工房やギルドにも公開していく予定だ!まずは一番使いやすい、作りやすい寸法を決めるぞ!」


「「「「「おおっ!」」」」」


 ゲーレンの言葉に職人たちが呼応する。


 今日は長い夜になりそうだ。



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