外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

20.規格と標準化

「ドワーフギルドにやってほしいのはベアリング作り以外のところにあるんだ」


 俺は話を続けた。


「昨日荷車を改造して分かったんだけど、どの荷車も車軸や車輪のサイズがバラバラなんだ。だから今のままベアリングを作ろうと思ったら荷車に合わせてベアリングを作らなくちゃいけない。それだと果てしなく手間になると思う」


「うむ、我がゲーレン工房で作る車軸と車輪のサイズはある程度決まっておりますが、他の所で作った車輪と車軸用のベアリングも作るとなると確かに骨ですな」


「だからゲーレンさんの所でベアリングとそれに使う車軸、車輪の寸法を規格にしてそれを標準化してほしいんだよ。標準化って言うのは要するに全国に寸法を公開してどの工房でもこのサイズで作りましょうって事なんだけど」


「つまり、テツヤ殿のベアリングと同様に我が工房の技術も全国に知らせる、そういうことですな?」




「気乗りしないのはわかる。でもこれは必要なことなんだ。これをしないとベアリングの修理の度に壊れたベアリングの寸法で作り直さなくちゃいけなくなる。車軸や車輪だってそうだ」


「しかし修理とはそういうものですぞ。職人は作るだけでなく修理まで見てこその職人なのじゃから」


 ゲーレンが顎髭をさすりながら言った。


「それはわかる。顧客の散逸を防ぐという目的もあるだろうし。でもこう考えてみてくれないか?例えばある農夫が村で作っている荷車を買って、それに収穫した野菜を積んで町までやってきた。しかしそこで荷車が壊れてしまったら?」


「それは町で修理するしかないでしょうな」


「でもその荷車は村で作ったものだから、その寸法の車軸も車輪も町では作ってないんだ。村にはお腹を空かせて待っている子供たちがいる。そういう時に町と村で同じ寸法の部品を用意できたらいいと思わないか?」


「う、うむ、それは確かに……」


「俺が言いたいのは結局のところそういうことなんだ。車輪なら車輪、ベアリングならベアリング、どこでも同じ寸法、同じ形状のものを作って買えるようにしたいんだ。そのための全国統一的な寸法が規格なんだ」


 うーむ、とゲーレンは考え込み、しばらくしてから口を開いた。


「それは……途方もない話ですな。確かにそうなれば修理を頼む側としては大助かりでしょう。しかしそれを国中に浸透させるとなれば話は別ですぞ。時間もかかるでしょうし、国全体へ働きかけねばなりますまい」


「ああ、それは確かにその通りだ。アマーリアに掛け合ってもらっても時間がかかるだろう。コストもかかるから国としてもやりたがらないかもしれない」


 俺は話を続けた。


「だからまずゲーレンさんの所で始めてほしいんだ。まずは車輪、車軸、ベアリングの寸法を策定し、ベアリングに関しては作り方も公開する。そのうえで改造を頼んできた客にはその寸法で作った部品で改造を行うんだ」


「つまりベアリングだけでなく、車軸から車輪まで全て取り換えると?」


「そう、かなりの労力になって申し訳ないけどそれでお願いしたいんだ」


 再びゲーレンは考え込んだ。


 前よりも長い時間考え込んでいた。


「もし儂がそれを断ったらテツヤ殿はどうするおつもりですかな?」


「どうもしないよ。俺はゲーレンさんにベアリングを任せると決めたんだ。そこから先は身勝手なお願いでしかないからね。でも今やらなくてもいずれそうなっていくと思う。今だって荷車のサイズはほぼ同じだしね」


「確かに荷車のサイズというのは結局のところ使う人の力や道路幅で自ずと決まっていくもの。それに我が工房から巣立っていった弟子たちも同じ工法で作っているから寸法を合わせることはさほど問題にはならぬか……」






 よし!と叫んでゲーレンが膝を叩いた。


「わかりました!我が工房で作っている車軸と車輪の寸法を公開しましょう!必要とあらば工法も公開することにしましょう」


「ありがとう、ゲーレンさん!」


「礼を言うのはこちらですぞ。国中で寸法を統一するなんて儂には思いつきもしないとてつもないアイディアじゃ。じゃが実現すればこれは国にとって計り知れない功績となるでしょう。ゲーレン工房にとってこれほどの誉れはないでしょうな」


 ゲーレンが立ち上がった。




「そうと決まればさっそく寸法の策定に入りましょう。テツヤ殿にも手伝っていただきますぞ」


「もちろんだ」


「いやはや、ここまで奮い立ったのは久しぶりですな。なんだか無性に鎚を振るいたくなってきましたぞ」


 ゲーレンは袖をまくり上げ腕をブンブン振り回している。


 俺も立ち上がってアマーリアとキリの方を振り返った。


「アマーリア、キリ、ちょっとこれから忙しくなりそうなんだ。すまないけど二人はここで帰ってもらえないかな?この埋め合わせは絶対にするからさ」


「やだ!キリもここに残る!」


「まあまあ、仕事をしようという方を邪魔するものではないよ。我々のやることはここにはないのだからお暇しなくては」


 憤慨するキリをアマーリアがなだめている。


「嫌だ、嫌だ、いーやーだ!」




 俺はキリの前にしゃがみこんだ。


「今日はちょっと遅くなりそうなんだ。ひょっとしたら徹夜になるかもしれない。俺と工房のみんなのために料理を作って持ってきてくれないか?キリの料理を食べれば元気がでて仕事もはかどると思うんだ」


「……だったら……いいけど」


 ふてくされながらもキリが不承不承頷いた。


「よろしく頼むよ。昨日オクゾーさんに貰ったパンも持ってきてくれないか。アマーリア、あとのことはよろしく頼めるかな?」


「うむ、任せててくれ。あの家にやってくるであろう新たな客の事もなんとかしておこう」


「ありがとう。助かるよ」


 俺はアマーリアに礼を言い、ゲーレンと共に工房へ向かった。



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