外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

15.よくあってはいけない事情

 風呂から上がってさっぱりして新しい服に着替えたキリはちゃんと年相応に可愛い女の子だった。


 残念ながら服は男物だけど、買った時は男だと思いこんでたからこればっかりはしょうがない。


「お前、きれいにしたら結構可愛い女の子なのな」




「ば、ばっかじゃないの!」


 キリが赤い顔を更に紅くしてぽかぽか殴ってきた。




「どれ、ちょっと傷を診せてみろ」


 俺はキリの顔の傷を確かめた。


 痛々しく開いてはいるが、そこまで深くは入っていないようだ。


 キリの傷口近くに手を当てる。


「少し痛むかもしれないけど我慢してくれな」


「ん……」


 少し眉をひそめながらキリが頷いた。


 テナイト村でやったようにキリの体に意識を集中し、傷が治っていく様子をイメージする。


 ゆっくりとキリの傷が閉じていった。


 少し跡は残ってしまったけど、こればかりは単純にキリの再生能力を加速しているだけなので仕方がないみたいだ。


「よし、できた。これで確認できるぞ」


 俺はキリにそこらの岩石から作った鏡を渡した。


「なにこれ!なんでこんなにはっきり映ってるの?」


 その鏡を見てキリが仰天している。


 そういえばこの世界の鏡といえばまだ金属を鏡面になるまで磨き上げたものが普通だった。


 俺が作ったのは岩石を平面にし、内部に含まれる光沢金属と石英で鏡面を作っているから日本の鏡とほぼ一緒の映り方をしている。


 キリが驚くのも無理はない。


「ちょっと跡が残っちゃったけど今はこれで勘弁してくれないか?全部消したかったら後で教会に行って治癒魔法をかけてもらおう」


「ううん、これでいいよ。ご主人様と一緒だしな!」


 キリが嬉しそうに俺の眉の傷を指差した。


 いや、キリは女の子なんだし…しかもそっちの傷の方が遥かに大きいんだが。


「そういや、その傷はなんでついたんだ?」


 俺は何の気なしに聞いてみた。


 それだけの大きな傷、かなりの事情があったはずだ。


 これからキリと暮らしていくのなら、そういうことも知っておいた方が良いのかもしれない。


 ……しかし、本当に一緒に暮らすのか?いいのか?


「これ?自分でつけたんだよ」


 キリが何でもないというように答えた。


「自分で?」


「うん、俺たちオニ族は人族と仲が良くないからさ。もし人族に捕まったら女子供なら嬲り者にされてしまうから、そうなったら自分で顔に傷をつけてしまえと母さんから言われてたんだ。醜くなってしまえば襲われることもないって」




「おかげで誰にも襲われなかったから良かったんだけどね。まあオニ族の女子なんか欲しがる人なんていなかったかもしれな……ちょ、ちょっと、ご主人様?」


 気が付けば俺はキリを抱きしめていた。


「もういい、そんな心配をする必要はもうないんだ」


 俺はキリを抱きしめながら言った。


 まだ小さな女の子がそこまで悲壮な決意をしなくてはいけなかったなんて。


 俺には想像もつかないほどの苦しみがあったはずだ。


「ちょ、なんだよご主人様。別に、そんな大したことじゃないって。よく…ある……ことだって……ば……」


 笑ってごまかしているキリの声が震えていくのを感じる。


 俺は更に強くキリを抱きしめた。


「約束する。もう二度とキリをそんな目には遭わせない。俺がキリの事を守る。これからキリは普通の女の子として生きていくんだ」


 俺にできることは、キリの人生を取り戻す事だけだ。


 オニ族とか人族とか関係ない、女の子としての普通の人生だ。




「う……うう……うああああぁぁぁぁん!!」


 キリは泣いた。


 今までずっと我慢してきたのだろう。


 攫われた時点で自分の人生を諦め、せめて感情を見せないことで、自分の体を傷つけることでそれに抵抗していたのかもしれない。


 もう大丈夫だ、俺はキリに言い聞かせ続け、キリは声はばかることなく泣き続けた。


 穏やかな川のせせらぎがその声を遥か彼方へ流していった。








    ◆








「ご主人様も傷だらけだよね」


 風呂に浸かっている俺に向かってキリが言ってきた。


 まだ目元は腫れているが、泣いたことでかなりすっきりしたらしい。


 声に今まで以上に張りがある。


「ああ、これは……色々あったんだ。話せば長くなるからそのうち話すよ。って、自分の風呂は見られるのを嫌がってるくせになんで俺の風呂は覗いてくるんだよ」


「へへ~、ご主人様だってキリの体ベタベタ触ってきたじゃん。これでおあいこだよ。それにご主人様だったらもう見られても平気だよ。なんなら背中も流してあげようか?」


「いいっ!服を脱ぎだすな!ほら、あがるからあっち向いてろ!」


 まったく、怒ったりからかってきたり、猫みたいだな。


 乾いて外側に跳ねてる髪もなんか猫っぽいし。


 そう言えばキリの自分の呼び方がいつの間にか俺からキリに変わっている。


 その辺にも心境の変化が現れてるみたいだ。


 さて、さっぱりしたところで、改めて片付けなくちゃいけない問題を片付けに行かないとな。


「はぁ~」


 俺は盛大にため息をついた。


 非常に気が重い。



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