ピーターパンは帰れない。

師走 こなゆき

6-5


 聞いてみると二人は、

「うんっ」

「ある、よ」

 と昔のわたしのように、瞬時に返す。

「あのね、あのね、あたしはお菓子屋さんになりたかったの! お菓子屋さんってね、魔法使いさんなんだよっ! いろんな色のキレイで美味しいお菓子を作って、みんな、みーんな笑った顔に変えちゃうんだっ。だからね、あたしもお菓子屋さんになりたかったんだあ」

 興奮を隠そうともせず話すヒイ。興奮しすぎて、話し方がおかしくなってるよ。

「ぼくはね、マラソン、の、選手に、なりたかったんだっ。ぼくね、走るの速いんだ。ヒイには、負けたことないもん。」

 セイも興奮した状態で、話し慣れていないかのように話す。

「二人とも興奮しすぎて、過去形になっちゃってるよ。そういう時は、『なりたかった』じゃなくて、『なる』で良いんだよ」

 わたしが指摘すると、ふたりは少し大人びた、でも泣きそうな表情をし、俯いた。

「ど、どうしたの二人とも?!」

 え、えっと……何かまずいこと言っちゃったかなあ? いや、ど、どうすれば良いの?

「「これで、良いんだよ」」

「へ……?」

 頭を抱えているわたしの横で、二人が消えてしまいそうな小さな声で言う。

「過去形で、合ってるんだ」

「あたし達には、もうなれないから、ね」

 言ってこちらを向いた二人は、泣きそうで、それでも無理やりに笑っていた。

 やめてっ! そんな表情をしないでっっ! 

 それは、子どもがしてはいけない表情。大人になるにつれて、嫌でも覚えていってしまう表情。

「へ、変なこと聞いちゃってごめんねっ」

 察してしまわないように、気付いてしまわないように、わたしは無理やりに話を逸らそうとする。その声は、自分でも分かるくらいに震えていた。

 頭にどこかの風景が浮かぶ。

 夜の住宅街。

 人通りの少ない、薄暗い、小さな道路。

 ここは……二人と出会った場所?

 この世界に来るために通った、電柱と誰かの家の塀。

 少しずつ、視界が下に降りてゆく。

 ……っ、ダメッ! これ以上は見たくない!!

 わたしが拒絶しようとも、その光景は無理やりに頭の中に浮かび上がってくる。

 今日置かれたであろう、萎れていない花束。

 近くの自動販売機で買ったらしい、缶ジュースが二本。

 近所のスーパーマーケットにある、子ども向けのお菓子コーナーから選ばれた数種類のお菓子。

 それらが、電柱の下で、道路を走る車の邪魔にならないように、申し訳なさそうに置かれていた。

「ごめん。ごめんね」

 今日の朝、お母さんが話していた、いつか近所で起こった交通事故。どこかの誰か、わたしの家の近くに住んでいたというだけの、ほとんど関係性のない双子の幼い姉弟が亡くなったと言っていた。

「なぜ、謝る、の?」

 何故なのかなんて、自分でも分からない。それでも、無性に謝らなくちゃいけない気持ちになった。

「あのね、あのね、おねえちゃんの将来の夢ってなに?」

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