Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第90話 直談判

「あなたになんの権利があって日菜を学校に残らせようとしているの? 日菜は今大事な時期なの。人気が出てきて今からって時期に学校に残らせるわけにはいかないわ。今アピールしておかないとこの先この業界で生きていけないかもしれないのよ?」

マネージャーの言っていることは正論だ。素人の俺にでもそれが正論だと直ぐにわかる。
日菜は大人気声優だが、活動を疎かにしてしまってはファンが離れて行く可能性は高い。

だが、それは正論であって正論ではない。その正論には日菜の気持ちが全く含まれていないのだ。

日菜は俺たちと一緒に高校を卒業をしたいと思っている。
あと半年しかない学校生活を、日菜の事を考えているようで考えていないマネージャーの独断で辞めさせてたまるか。

「それでも僕は日菜に学校を辞めて欲しくない。一緒に学校を卒業したいと思ってる。それは俺だけの意見じゃない。他の友達も、何より日菜自身がそう思ってるんです」
「だからなんだっていうの? 高校を卒業するための残り半年のために、この先何十年と続いていく日菜の声優活動を犠牲にするわけには行かないわ」
「その半年が大事なんです。日菜はあと半年で学生生活を終えるんです。人生の中で1度しかない学生生活を終えてしまうんです。その時間を僕は日菜と一緒に過ごしたい‼︎」
「何を言われてもダメよ。学生生活が声優活動に役立つことなんて何一つないわ」

何を言っても頭ごなしに反対されてしまう。
どうすればこのマネージャーの気持ちを動かすことができるのか。

そう思った瞬間、俺の頭の中に1つの案が浮かんだ。
今思いついたこの瞬間日菜に迷惑がかかるかもしれないが一か八、試みるしか無い。

「……僕、日菜に告白されたんです」
「ちょ、祐何言ってるの⁉︎」
「――告白?」

楓には申し訳ないが、俺が咄嗟に思い浮かんだ作戦は俺が告白されたことをマネージャーに伝える事だった。

日菜が俺に告白したことを知れば、日菜の気持ちを汲んで残りの半年は学校に通う事を許してくれるかも知れない。

「はい。僕は日菜に告白されました」
「それで返事は?」
「……まだ返事はできていません」

日菜の顔が激しく紅潮し、耐えきれなくなった楓は両手で顔を隠し始めた。

楓の反応を見たマネージャーは俺の発言を信じたようだ。

「……そう。本当なのね」

楓は顔を手で隠したまま、コクコクと2回頷いた。

「分かったわ。そういう事なら日菜があと半年、高校を卒業するまで上京しない事を許します」
「え、本当ですか⁉︎」

余りにもあっさりと上京しない事を了承してくれたことに俺と日菜は驚き、マネージャーが上京しない事を許してくれた理由を尋ねた。

「私は正直、日菜は恋愛なんてしていないと思っていたの。そんなそぶりも一切見せなかったしね」
「それはどういうことですか?」
「そもそもあなたが高校に通う事を容認していたのは恋愛の経験をして欲しかったからなの。恋愛は人生でそう何度も経験できる事ではないし、それを経験して演技の幅を広げて欲しいと思ってたの」

俺はそこまで考えてはいなかったが……。ま、まあ楓が学校に残れる事になったのだから結果オーライだろう。

「マネージャーさん……。ありがとうございます‼︎」
「学校に残るからには仕事も勉強も、恋愛も頑張りなさいよ」
「はい‼︎」

その後、俺は日菜とマネージャーの打ち合わせが終わるのを待ち帰路に就いた。

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