Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第81話 上京問題

電車に乗り込んだ俺と楓はしばらく言葉を交わす事は無く、窓の外を眺めていた。

学校を辞めて上京する事に覚悟を決めた楓と、絶対に楓を辞めさせないと意気込んでいる俺とでは考え方がまるで違う。

というか、なんで楓が日菜だとみんなに気づかれたんだ?

俺は誰かに楓が日菜だと話した事は無いし、楓自身が私は日菜ですと公言しているという事はあり得ない。

「楓は自分が日菜だってみんなに知られてしまった理由が何か知ってるのか?」
「うん。私もさ、一応声優の日菜として活動している芸能人なわけじゃない? 自分の評価が気になるわけじゃなくて、普通に学校に通う普通の女子高生の楓が人気声優の日菜だって誰も気付いていないかSNSでエゴサーチしてたの」

芸能人がエゴサーチをしているのはテレビでも聞いた事があるが、その用途は様々なんだな。

「やっぱエゴサーチってするんだな」
「そしたら前に祐と行ったショッピングモールでのデートの時に私が日菜だって気付いてたファンの人がいたみたいで……」
「……まじか」
「私の写真と、ご丁寧に楓って名前まで書いてあった。祐が私のことを楓って呼んでたのが聞こえてたんだろうね」
「え、じゃあもしかして」
「うん。SNS上じゃ私が彼氏とショッピングモールにいたってもっぱらの噂になってる」

楓が日菜であるという事がみんなに知られてしまっただけでなく、彼氏とショッピングデートをしていたとあらぬ尾ヒレがついていた。

「そ、そんな……。すぐに訂正しないと」
「私は嬉しいんだよ? そう勘違いされて。学校を辞めないといけないのは本当に悲しいけど、最後にこうして祐と2人でいられるのも本当に嬉しい」

勘違いされた事を嬉しいと喜んで微笑む楓が言い放った「最後」という言葉に思わず胸が痛んだ。

楓が上京してしまえば、学校から楓がいなくなるどころか簡単には手の届かない遠い存在になってしまう。

そもそも、人気声優の日菜と毎日楽しく会話をするのが普通になっていた俺の感覚がおかしいのだろうが、東京で人気声優として本腰を入れて活動を始めたら次会えるのはいつになる事やら。

「最後じゃない。楓は楓として、俺たちの学校に帰ってくる」
「そうなるといいな……」

この話をしていた時、今までは考えもしなかった気持ちが俺の中で湧き上がってきた。

仮に楓が一緒に残りの高校生活を過ごす事ができたとしても、卒業してしまったら楓は上京して声優活動をする事になる。

そうなれば結局は楓と会う事は出来なくなってしまう。
どうしてもハッピーエンドを迎えられない展開に俺はどうにもやるせない気持ちになった。

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