Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第28話 内緒の写真

「はい。入って入って」
「お、お邪魔しまーす」
「遠慮しなくても大丈夫だよ。前にも言ったけどうち、親は仕事で家にほとんどいないから」

楓が放ったその一言に他意は全く無い。
それは百も承知なのだが、健全な男子高校生である俺の胸の鼓動は自ずと早くなる。

「お茶とかお菓子とか用意してくるから先に私の部屋に行ってて。階段上がったらすぐ右手にあるのが私の部屋だから」
「わ、わかった」

こうも簡単に同級生の女子の部屋……いや、日菜の部屋に入っても良いのだろうかと変な気を遣ってしまうが、本人が良いというのだから気を遣う必要はない。

自分の家の階段を上るときは絶対に使用しない手すりに手をかけ、恐る恐る階段を上る。
階段を上り終え、楓の部屋の前に到着した。

楓の部屋の扉には、楓の葉の形をした表札がぶら下がっており、そこにアルファベットで『KAEDE』と表記されている。

同級生の女の子の部屋に入るだけでも緊張するというのに、俺は今から日菜の部屋に入室するのだ。
あまりに恐れ多いこの状況に不安と緊張が入り混じる。
いつまでも躊躇はしていられないと、深呼吸をして一度唾を飲み込む。

扉の取っ手を手に取り思い切って扉を開けた。

な、なんだこれは。

楓の部屋はピンクを基調としたインテリアでまとめられており、動物のぬいぐるみやハート型のクッション等、女の子の部屋と聞いて思い浮かべるものは一通り取り揃えられていた。

一つ、普通の女の子の部屋と違うことがあるとすれば、間違いなくこの大きな本棚の中身だろう。

そこには置かれるべき漫画本以外に、おそらく日菜が演じてきたキャラクターのフィギュアが並べられていたのだ。
その数は30体にも及ぶだろうかと思われる。

これほどの数のフィギュアを集めるには相当時間がかかるだろう。
非売品として譲り受けるのか、お店で購入するのか、はたまたゲームセンターで取ってきたのか。

自分が演じたキャラクターを大切にしようという日菜の心構えが痛いほど伝わってきた。

それと同時に、声優には芸能界ならではの裏の部分があるのではないかと心配していた俺の不安は払拭され、思い描いていた通りの姿勢に感銘を受けた。

同級生の女子の部屋は勿論興味深いが、大人気声優の日菜の部屋ともなればその興味は何倍にも膨れ上がる。

俺は他に何か面白いものがないかと辺りを見渡した。

すると、勉強机の上に何かの写真が立ててあることに気が付いた。

大人気声優の日菜が机の上に飾っている写真はどんなものなのか、あまり目が良くない俺は写真に近づき写真の内容を見ようとする。

すると、もの凄い音を立てながら楓が階段を脱兎のごとく駆け上がり部屋に入って来た。

「どうした? そんなに慌てて」
「見た? その写真」

息を切らす楓の姿を見て机の上に存在する写真は見てはいけないものだと悟った俺は、写真の存在には気付いていたものの白を切る。

「写真? なんだそれ」
「……なんでもない」

なんでもないと言いながら机の上に置かれていた写真立てをすっと持ち去る楓の姿にを見て、あの写真が楓にとって見られたくないものなのだと分かった。

そうなると、その写真の内容をフィギュアよりも先に見ておけばよかったという後悔の念に駆られた。

同時に、楓がそれほどまでに見られたくない写真なのであれば見ないで良かったとも思った。

人には知られたくないことの一つや二つは存在するものだ。

楓はお茶とお菓子を忘れたからとその写真を俺に隠すように持ち、1階に戻っていった。

いやお茶とお菓子を準備するって言ってたのに2階に上がるときにそれは絶対忘れないだろ。

電車に乗りに行くのに定期を忘れるようなもんだぞ。

あ、でもそれは意外とあるわ。

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