Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第24話 小さな異変

今日は日菜のライブの日。俺は楠木とライブ会場にいる。

ライブは18時開演予定で現在時刻は17時。すでに開場しており、俺たちは日菜のライブTシャツを着て席につき待機している。

日菜のライブTシャツはフリーサイズしか販売しておらず、楠木は小柄なためぶかぶかだ。
俺みたいなやつがぶかぶかな服を着ればだらしなくみえるだけだが、楠木がぶかぶかな服を着ている姿は幼稚園児が着るスモッグのようで何とも可愛らしい。

「服ぶかぶかだな。幼稚園児にみえるぞ」
「幼稚園児とはなんですか‼︎ 小柄なことがコンプレックスでもあるんですからあまり触れないでください」

小柄なことはコンプレスックスというよりもむしろ楠木のチャームポイントの一つだ。

小柄であることを気にしているところがまた可愛い。

日菜は俺が一番最初に好きになった声優で、俺がアニメオタクになるきっかけになった声優だ。

先週行ったゆいにゃんのライブは予想以上に良いものだったが、やはり日菜のライブは俺にとっては別格だ。

今日のこのライブという時間を、日菜と同じ空間で同じ空気を吸い、同じ音を聴き、同じように興奮する。

日菜を一目見ただけで息が止まってしまいそうだ。

「渋谷くん、やっぱり日菜ちゃんのライブはとても楽しみにしてる感じが伝わってきます」
「そうか? いつもと変わらない思うけど」

日菜のライブを直前に控え、浮き足立つ様子を楠木に気付かれてしまった。

恥ずかしくなった俺はそれからライブが始まるまで、楠木に浮き足立っているのがバレないよう極力息を殺すことに努めた。



◆◆◆



ライブ会場が暗くなる。観客の歓声とともにステージに飛び出してくる日菜。

「うぉぉぉぉぉぉおおおお‼︎ ひなぁぁぁぁぁぁ‼︎」

普段は絶対に出さない大きな声が喉の奥底から湧き出てくる。
あまりの大声に喉が驚き、ライブの後は声がガラガラになることは避けられないだろう。

それでも構わない。俺は今日で燃え尽きるのだと必死に大声を出した。

生で見る日菜を目に焼き付けなければと日菜を凝視している。

あ‼︎ いま日菜と目が合ったぞ‼︎ 絶対合った‼︎ 誰がなんと言おうとも日菜と目が合った‼︎

しかし、目が合ったと勝手に思い込み興奮していた俺のテンションはすぐに下がった。

確かに日菜と目があった気がした俺は、言葉では説明できないような小さな異変に気がついた。

日菜の元気が無い。ような気がする。

日菜のライブには何十回、何百回と来ているわけでは無いが、日菜の動画や歌は視力、聴力が落ちることなどお構いなしで時間が空けばひたすら見聞きした。

そんな俺には分かる。今日の日菜は元気が無い。

いつものライブのようにファンに向けて惜しみない笑顔を振りまいているが、その笑顔がいつもより硬い気もする。

日菜は声優だ。芸能人だ。日菜の私生活については全く知らない。

それでも、日菜の歌を聴けば日菜がどれだけ努力をしているのかということは容易に分かる。

そんな日菜がこのライブに向けて努力を怠るはずがない。

他のファンは全く気づいてない様子だが俺は日菜の元気が無いことが気になってライブに集中できない。

体調不良だろうか。身内の不幸だろうか。考えれば考えるほど要因は浮かぶが解明に至るはずもなく、ライブはあっという間に終わりを迎えた。



◆◆◆



「ライブ、あまり楽しくなかったですか? 途中から渋谷くんのテンションが下がってた気がして……」
「いや、日菜の曲を聴けたこととか、日菜と同じ空間にいられたこととか、楽しいことしかないんだけど何だか日菜の元気がなかったような気がしてな……」
「そうだったんですか。私は全然気づかなかったです。さすが渋谷くんですね」

そう、昨日今日の日菜ファンには気付くことが出来ない微妙な違いだ。俺も日菜の何がいつもと違ったかと聞かれれば言葉につまるが、雰囲気が違ったのだ。

まあ俺がどれだけ心配したところでどうすることも出来ないんだけどな。

しかし、俺は週明けの月曜日に日菜に関した衝撃の事実を知ることとなる。

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