Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第22話 天使

楠木がオタクであることを風磨と楓に知られてしまったその日の放課後、俺は楠木と行きつけのヤイゼリヤにやってきた。

俺は神妙な面持ちで両肘を机につき、顔の前で右手と左手を重ね合わせていた。

「楠木、話がある」
「どうしたんですか? 改まって」
「風磨と楓に楠木を紹介してもいいか?」
「私がオタクだという事実を話すってことですか?」
「その通りだ」

楠木は腕を組み、俺の提案に対する回答を考えている。腕を組んでく怖さや威厳が全く無い、ただただ可愛いだけの生き物だ。

「私も鈴木くんと楓さんとお友達になりたいのが正直な意見です。でも私がオタクだと知って私のことを嫌いにならないでしょうか?」
「確かに学校1の美少女がアニメオタクだと知ったら嫌いになるかもなぁ。でも大丈夫。もう2人には楠木がオタクだって伝えたから」
「そうですよね、大丈夫ですよね。私がオタクだって知られても……って言ったんですか⁉︎ 私がオタクだって言ったんですか⁉︎」

体を乗り出し焦った様子で俺の方に詰め寄る楠木。

俺が風磨と楓の2人に楠木がオタクだという事実を話したと知ったら楠木は俺のことを嫌いになるかもしれない。

それでも、楠木に嘘を付けるほど俺は悪い男ではない。

「言った、というよりは言ってしまった、が正しいかな。そしたらあいつら、楠木と友達になりたいってさ。楠木がオタクだって事実には驚いてたけど、喜んでたよ」
「……本当ですか?」
「あいつらも正真正銘のオタクだからな。楠木がオタク仲間だって知って嫌いになるわけがない」

オタク同士が友達になれないわけがない。同じアニメを好きな者同士、話は会うし友達になるべきだ。

「ごめん。楓と話してた時に口が滑ってさ……」

俺がそう言ったら楠木は怒ってこの場を立ち去ってしまうかもしれない。恐る恐る楠木の顔を覗き込む。

「……渋谷さんは何も悪くありません。元はと言えば私がオタクだってことを黙って嘘の自分を演じているのが悪いんです。それに、これをきっかけに鈴木くんと楓さんとも仲良くなれれば良いなって思います」

秘密をバラしてしまった俺に対して怒るわけでもなく軽蔑するわけでもなく、その優しさと笑顔を惜しみなく俺に振りまいてくれる。

やばい、楠木のことを好きになりそうだ。

天使のように可愛い楠木が今日は本物の天使に見える。

「怒らないのか? 俺は楠木の秘密をバラしたんだぞ?」
「怒るなんてとんでもない。渋谷くんは私とオタク友達になってくれて一緒にゆいにゃんのライブに行ってくれました。そんな渋谷くんを肯定こそしても否定なんてするはずがありません」
「……ありがとう」

俺はアニメやドラマでどれだけ感動しても涙を流すことはない。そんな俺が思わず涙を流しそうになっていた。

そして明日、ここヤイゼリヤで風磨と鈴木に楠木を紹介することになった。



◆◆◆



次の日、俺と楠木は先にヤイゼリヤに入店した。
風磨と楓が入店した後で合流するよりも、先にお店に入店しておいた方が緊張しないだろうという配慮をしたのだ。

「ど、どうしましょう渋谷さん。渋谷さんとは気楽にお話が出来るんですけどあのお二人と話すのはとても緊張します」

俺とは気楽に話が出来ると言ってくれたことに感動しながら楠木が緊張しないよう話しかける。

「俺と話すのも最初は緊張しただろ? 大丈夫だ。すぐ仲良くなれるよ」
「そ、そうですよね。確かに渋谷さんと話すのも最初は緊張しましたし大丈夫……」
「こんにちは」

「は、はいっ⁉︎」

楠木が話している途中で後ろから挨拶をしたのは楓だった。

あいつ、わざと楠木が驚くように声をかけたな……。

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