大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第55話 偶然の出会い

晩飯を食べ終え部屋に戻った俺たちは女性陣の部屋でトランプを楽しんでいた。テレビゲームやスマホゲームは好きなのでみんなでプレイしていても盛り上がれるのだが、トランプやウノと言ったカードゲームが苦手な俺は様々なゲームで大敗を喫していた。

「海翔、本当トランプだけは下手くそだよな」
「舐めるな、ウノも苦手だ」

トランプやウノと言ったカードゲームが苦手な理由は分からないが、負けてばかりなのであまり長くプレイはしたくなかった。

「ふん。いい気味ね。もっと負けなさい。負けて負けて精神的に死になさい」

そういう言葉は心の中で言おうね。口に出したらダメって両親から教わらなかったの? 言われた本人表情に出してないだけで大ショックだよ。

「海くん頑張って‼︎ 私、応援してる‼︎」

俺に優しくしてくれるのは千花だけだよ。こんな優しい奴と幼馴染でほんと良かった。でもその優しい視線は辛いから勘弁してもらいたい。

「……ふぅ。ちょっと一回散歩でもしてくるわ。負けすぎて本当死にそう」
「大丈夫? それなら私もついて行くよ」
「大丈夫だ。本当にちょっと散歩するだけだから」
「そっか。早めに戻ってきてね」

幼馴染の千花は異性というよりは暖かく包み込んでくれる母親の様な存在だ。可愛いし仲もいいが異性として見た事はない。
母親には心配をかける訳にはいかないからな。最近は神野の事で心配をかけているし、出来るだけ早く散歩から戻ることにしよう。

千花に「おう」とだけ返事をして部屋を出た俺は夜の温泉街を散歩する事にした。
旅館を出ると都会の街頭のように明るい光ではなく、仄かな光に照らされた薄辛い空間に気持ちが癒される。街頭だけでなく、夜空に輝く月灯りもトランプに大敗した俺を慰めてくれているようだった。

そんな月を見上げながら温泉街を歩く。どうやら俺は空を眺めながら歩くのが好きらしい。
夜の温泉街に人は少なく、見渡す限り俺以外には二人しか姿が見えない。

最近は本当に神野の家に籠りっきりだったからなぁ。たまにはこうして神野に会わず、ゆったりとした時間を過ごすのも良いかもしれない。神野に会うこと自体が緊張する出来事なのだから心身ともに疲労が溜まるのは避けられない。疲労が溜まって来ていたこの時期の旅行はありがたい。

俺以外に温泉街を散策していた浴衣姿の女性二人の横を通り過ぎようとすると、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ちょっと、あんまりはしゃいでないで早く帰りますよ」
「ふんっ。こんな時くらい夜更かしして楽しまんでどうする‼︎ ほれほれ、まだまだ行くぞ‼︎」

何やら楽しそうな女性の声に耳を傾けているとこちらまで楽しい気分になってくる……。じゃなかった、この声、やはりどこかで聞き覚えが……。

「フェリス、旅行に来たからといってハメを外し過ぎるのは良くありません」
「ハピネスは少し硬すぎるのじゃ。こんな時くらいはしゃいでもよかろう」

ーーま、まさか⁉︎

俺が驚きで一歩後退りすると、その足音を聞いた女性らがこちらを向く。

「ーーえ、義堂さん⁉︎」
「神野⁉︎」

まさかの出会いに俺は驚き口を大きく開けてしまった。

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