大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第48話 隠れハピネスファン

神野に家を追い出され涙目になっていたフェリスは先程までとは打って変わって静かに俺の部屋に入ってきた。部屋に上がったフェリスは辺りを見渡すと、俺お気に入りのリビングテーブルの椅子にちょこんと座った。

「……お前は客人に茶を出すという気遣いも出来んのか」

落ち込んでいたフェリスだったが、俺の部屋に入って落ちつきを取り戻したのか先程と同じく威勢のいい発言を続けた。普段であれば、なんて失礼な奴だ、と思うところだが、今はフェリスが少しでも元気になった事を喜ぶとしよう。

「客人も何もお前が勝手に家に上がり込んできたんだろ。まぁ元気になったみたいでよかった」
「上がり込んできたのではない。仕方がなく上がってきてやったのだ」
「うん、そうか。じゃあ帰ってくれ」
「な⁉︎ なぜ私が帰らねばならんのじゃ‼︎」
「いや、ここ俺の家だし」

俺は気づいた。フェリスは強気に見えてものすごく打たれ弱いということに。強気どころかどちらかと言えばイジられキャラなのだと言うことを悟った俺はその後もフェリスにたたみかけた。

「そ、それはそうなんだけど……」
「神野も迷惑してたみたいだしさ。突っかかるような真似はやめた方がいいんじゃないか?」
「べ、別に突っかかった訳じゃ……」
「そんな事ばっかしてると嫌われるぞ」
「……帰る」

俺が強い口調で言葉を続けるとフェリスは再び声を震わせて涙目で俺の家から立ち去ろうとした。俺としてはフェリスが出て行ってくれれば静かになるしありがたい話だ。

……はぁもう。

「おいフェリス、お前本名は?」
「……? 鈴村……涼華」
「あーじゃあスズだな。飯食ってくか?」
「……良いのか?」

俺がフェリスを飯に誘うとフェリスはチラっとこちらに振り向く。

「まあ俺が作るんじゃなくて神野が作って持ってきてくれるんだけどな」
「……ふんっ‼︎ そこまでいうなら仕方がないな‼︎」

自分のお人好し加減に嫌気が差すな。明日はライブ配信だっていうのに準備もへったくれもありゃしない。まあ準備っていうよりは顔を見せない為の練習だけど。

すっかり元気を取り戻したフェリスは意気揚々とリビングの椅子に座り直した。俺はスズの正面の椅子に座り、気になっていることをいくつか質問する事にした。

「スズはなんで神野がハピネスだって気が付いたんだ?」
「愚問じゃな。私ほどのハピネスファンなら神野幸音の顔を見れば一瞬でハピネス本人だと気がつくわ」

ーーまじ? 本当に神野の顔を見ただけで神野がハピネスだと見抜けたというのなら、俺は本当のハピネスファンではないという事なのだろうか……。
え、ていうかこいつハピネスのファンなの? 犬猿の仲的なアレかと思ってたんだけど。

「そうか……。確かに、神野もハピネスも超可愛いもんな」
「そうなんですよ‼︎ ハピネスも神野さんもほんっとに可愛いんですよ‼︎」

なにその口調、さっきまでの口調はなんだったの?

てっきりおばあちゃんっ子で口調がおばあちゃんに似てしまったんだとばかり思ってたわ。

「ーーえ、さっきまでの口調は?」
「なんの話じゃ?」

あ、元に戻った。というより元に戻したなこいつ。あくまでシラを切るつもりか。先ほど自分が標準語を話したことを無かったことにしようとしている。

「無かった事にはならないからな」
「……はあ。やってしまいました」
「やっぱこっちが普通なのか」
「はい。さっきの口調はYouTubeで活動をしていく上でのキャラ作りです」

なるほど、キャラ作りと言われればそれほどしっくりくる理由は無い。神野も学校での姿とは真逆のキャラクターでYouTuberをしている訳だしな。

「キャラ作りか。そんなことしなくてもそんなに可愛けりゃすぐ人気が出そうなもんだけどな」
「べ、別に褒めても何も出ませんよ」
「何か貰おうと思って言ってねぇよ。それより、なんでスズは神野を目の敵にしてるんだ? ファンだって言ってたけど」

そういうとスズはしばらく黙り込んでから話し始めた。

「……ハピネスは私にとって命の恩人なんです」

先程までのハピネスを目の敵にしていた人間の発言とは信じられないが、スズの柔らかい表情からその言葉に嘘は無いとすぐに分かった。

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