大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第46話 フェリス襲来


動画の内容が決まった俺たちはすぐに撮影に取り掛かった。元より顔を見せるつもりはさらさら無く、撮影を終了した俺たちは撮影後の動画を何度も見直して俺の顔が映っていないか確認した。

「よし、これなら気づかれないな」
「そうですね。これなら気づかれません」

何度か撮影してようやく顔がバレない程度のお盆芸を撮影する事が出来た。意外と難しいんだなアレ。よくテレビで放送してるな。尊敬する。

「いやー、なんとか撮影が終わってよかった」
「……」

撮影は上手く行ったはずなのだが、神野は何やら神妙な面持ちで動画を見返している。

「どうした? 何かまずいところでもあったか?」
「いや、まずいところはないんですが……」
「何もないならそれでいいんじゃないか?」
「これ、何度も撮影して成功した動画な訳じゃないですか。それって見る前から、どうせ顔なんて見えないだろって思っちゃいません?」

……正直俺も物足りなさを感じていた。どれだけ動画のタイトルで興味をそそったとしても、結局顔出さないんだろ? と思われてしまっては意味が無い。

「確かにな……」
「そうなると……」
「アレしか無いよな」
「そうですね。アレしかありません」

それは最初から考えていた可能性ではあった。そうする事が最善の策なのだろうと分かっていながらその答えを出すのを避けていた。
しかし、自分自身が面白くないと思っている動画を投稿しても結果は目に見えている。ならば、どれだけ嫌な事でも避けて通るべきではない。

「ライブ配信か……」
「その通りです」

あー嫌だ。本当に嫌だ。チャンネル登録者数が増加し、俺の顔は知られないのが一番いいが、先程撮影した動画から考えるに俺のお盆芸の成功率は四十パーセント程度。失敗する確率の方が高いのに無謀な賭けは出来ればしたくなかった。

しかし、ライブ配信であれば視聴者の考えが、どうせ顔は見えないだろう、とはならないので視聴者は増えるかもしれない。
神野のためだと考えれば、やらないわけには行かないな。

「……じゃあ今からやるか?」
「今すぐだと話題にならないかもしれないので、今日中に私がツイッターで告知押しておきます。それで明日ライブ配信ということにしましょう」
「それが一番だな。じゃあ告知だけ頼む」
「迷惑かけてすいません」
「舐めるな。俺はハピネスの大ファンだぞ?」
「なんですかそれ」

ふふっと笑う神野に見惚れるのは何回目だろうか。神野が笑ってくれるならお盆劇でも裸芸でもなんでもやるわ。うん。引かれる未来しか見えない。

結論は決まったので、解散しようとしたその時、神野の家のインターホンが鳴った。

「誰だ?」
「……はぁ。検討はついてますけど」

片手で顔を覆いながら面倒くさそうに玄関に向かう神野。

「ダメです、私はどうもこの扉を開ける気になれないので義堂さん開けてください」
「ダメだろそれは。俺がこの家に居るってバレるぞ?」
「あの子なら大丈夫です。もう義堂さんが黒子だって知ってるので」
「ああそうか。それなら……っては⁉︎ 知ってる⁉︎ 俺が黒子だって⁉︎」
「いいからいいから。ほら、開けてください」

何も良くないんだけど⁉︎ 俺の正体を知ってる奴がいる⁉︎
そんな話聞いてませんよ神野さん。神野が俺の正体を明かしてしまうほど仲の良い友達ってどんな奴だ?

訳が分からないまま俺は恐る恐る扉を開けた。……あれ、誰も居ないな。

そう思いながら辺りを見渡すと、俺のスネに強烈な痛みが走った。

「痛って‼︎ な、なんだ⁉︎」
「お前が私を馬鹿にするからいけないんだ」

痛みで屈んだ俺は声のする方を見ると、そこには小学生かと思われる小さな女の子がたたずんでいた。

「あ、ちょっと神野さん、この小学生は誰……って痛った‼︎」

俺が神野に話しかけている最中に、反対側の足に同じような鈍痛を感じた。

「はぁ。もうその辺にしておきなさい。困ってるじゃないですか」
「ふんっ」

何者かもわからないちびっこからの攻撃に俺はしばらく顔を歪めていた。

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