大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第39話 開かない鍵


千花の発言は神野の手伝いを始める前の俺が聞けばなんら問題の無い発言だ。
お隣さんの迷惑にならない程度に騒いでいれば一真たちが俺の家に遊びに来るだけの微笑ましい日常である。

しかし、今俺の家に遊びに来られるのはリスクが高すぎる。
神野は基本自宅にいるので今日も自宅にいる可能性が高い。となれば俺が住む部屋の隣の部屋に神野が住んでいることを知られてしまうかもしれない。

申し訳ないが何かしら理由を付けて断る事にしよう。

「あー、俺の家? 今散らかってるから来ない方がいいと思う」
「なにそれ。今更じゃんか。海翔が散らかしてた服とか、私がたたんで片付けてあげてたくらいなんだから」

千花に言われて思い出したが以前俺の家に遊びに来ていた時も俺の部屋は散らかっており、世話焼きの千花が掃除をしてくれていた。今更散らかっているという理由では断れない。

何か他の理由を付けて断ろうとも考えたが、最初の言い訳がまずかった。
最初に散らかっているという理由で断ろうとしたからには、それを論破された後で他の理由は付けづらい。

「そ、それもそうだよな」
「どうしたの? 何か家に見られたらまずいものでもあるの?」
「そんなもんねえよ」

思いっきりあるんだけどぉぉぉぉぉぉ……。

神野と一真たちが出くわす事は無いだろうが、万が一という事もある。タイミング悪く俺たちがアパートに到着した瞬間に神野が外に出て来るかもしれないし、何かの用事で俺の家に来るかもしれない。

……まあ仮に神野が同じアパートに住んでいることを知られたからと言って神野がハピネスであることや、俺が動画撮影を手伝っている事がバレる訳ではない。

気づかれる可能性は大幅に上がってしまうが、こうなったら仕方が無いか。

そして俺たちはメニッシュを完食し、俺の家へと向かった。



◆◇



普段自分が歩くスピードよりもかなりスピードを落として歩くという無意味な抵抗をしてみたものの、どれだけゆっくり歩いても目的地には必ず到着してしまう。

遠目に見えてきた見慣れたアパートを見て俺は大きくため息を吐いた。

「海翔の家に来るの本当久々だな」
「そうね。後をつけた時以来かしら」
「ん? なんだって?」
「な、なんでもないよ!?」

久々に俺の家に来るせいかテンションが上がっている様子の一真たち。
俺とは対照的なテンションの一真たちを見て再度大きくため息を吐く。

「ちょ、ちょっとここで待っててくれ」

一真たちを自宅から少し離れた場所で待機させ、神野が自宅の前にいないかを確認する。
自宅の前に神野の姿は見えないが、神野の家の窓から部屋の光が漏れており家に居る事は確認出来た。

俺は心の準備をしてから一真たちを呼ぶ。

「よし、いいぞー」

俺の合図で一真たちは俺の家の前まで歩いて来た。

覚悟を決めた俺は扉を開けるために家の鍵を取り出して鍵を開けようとするが中々鍵が開かない。

「どうしたの? 鍵開かない?」
「海翔、家にまで嫌われたか」
「家が俺のこと嫌いってなんだよ。絶対愛されてるから」

なぜ鍵が開かないのか理由は分からぬまま、鍵を抜いては刺し、抜いては刺しを繰り返す。
しかし、家の鍵はいつまで経っても開かなかった。

「なんでだろうな……」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
「でも鍵開かなかったんでしょ?」

郁奈からの指摘に返す言葉もなく、鍵を見つめて鍵が開かない理由を考えた。

……あ、俺使う鍵間違えてるわ。

俺が使っていたのは神野から渡された神野の家の合鍵だった。そりゃ開かない訳だ。

「ごめん、勘違いしてたわ。もう開く」
「なにそれ。まぁ開くならいいけど」

郁奈は俺を訝しんでいるようだが、何とか家の鍵を開け一真たちを家に招き入れる事が出来た。

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