大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第31話 スミくんの決意

神野が普段見せない甘えた姿に違和感を覚えながらも、顔を火照らせてこちらを見つめてくる可愛すぎる神野に俺は思わず見惚れてしまっていた。

「神野が寝るまでここに居ればいいのか?」
「はい……。1人だと心細くて……」

ベットに寝転んだまま毛布で顔を半分隠し、上目遣いでそう訴えかける神野は幼い子供の様だった。
神野の可愛すぎる顔を直視すると顔が赤くなってしまいそうなので俺は思わず目線を逸らした。

寝るまでここにいて欲しいというお願いを拒否する理由も無いし、普段は強気の神野が俺に甘えてしまう程に弱り切った状態で一人にしておくのは不安だったので、神野のお願い通り神野が寝るまでここに居る事にした。

一度は家を出ようと立ち上がったが、寝室に戻り神野のが寝ているベッドの横に置いてある椅子に座り直す。
俺が座り直した瞬間、安心したのか最後の力を振り絞って開けられていたと思われる瞳は力なく閉じられた。

神野は無理をして動画を撮影していたのだろう。
俺が手伝い始めてからはやらなければならない事も減り幾分か楽になってはいると思うが、それでも学校から帰ってきて撮影や編集を続けるにはかなりの体力を消費する。

自分では気付いていなかったのだろうが、やる気だけが先走って体は悲鳴を上げていたようだ。

高熱が出ても視聴者を楽しませるために動画を撮影しようとしていた神野の姿を見て、何か力になりたいと思った俺は神野のために出来ることは無いかと頭をフル回転させる。

出来ることなら苦しんでいる原因の風邪を治してやりたいが、神野の風邪を一瞬で治す事は魔法使いでもない限り不可能だ。
病院に行っても風邪薬を処方されて終わりなので一瞬での回復は不可能である。

病気を治す事が不可能なら、それ以外で俺に出来ることは……。

そんな事を考えているうちに俺の耳に届いていた神野の小さな呼吸音のリズムが変化した。

就寝したか確認するため小さく名前を呼ぶが返事は無い。

神野が眠りについたことを確認してから額に乗せたタオルを取り、もう一度水で冷やしてから神野の額に乗せ直す。

スースーと寝息を立てながら眠る神野を見ていた俺はいつの間にか神野の頭を撫でていた。

自分でも何をしているのかと驚きはしたがその行為に雑念は含まれていない。
こんな状態になるまで頑張っていた神野への労いの気持ちが起こした行動だった。

「本当神野は頑張ってるよ。いつもありがとな」

できるだけ小さく声をかけ、呼吸が安定し眠りについた神野を置いて自宅に帰る事にした。

自宅に戻る時、神野の家に置いてある動画撮影用のカメラと机の上に置かれていた神野の家の鍵を持って外に出た。
人の家の鍵を勝手に持っていくという行為は憚られたが、俺が自宅に帰るためには神野の家の鍵を閉めなければならないので不可抗力である。

机の上には「起きたら電話してくれ。鍵を返しに来る」と電話番号を書いたメモを置いておいたので問題は無いだろう。
もしかしたら明日の朝までずっと寝込んでいる可能性もあるのでそのメモは意味を為さないかもしれないけどな。

神野が寝込んでいるこの状況で俺に出来ることは一つしかない。

俺はそれを実行するため、自宅に帰ると散らかった寝室を急いで片付け始めた。
何故もっと綺麗にしておかなかったのかと後悔するが、後悔しても意味はないと気持ちを切り替えて片付けを続けた。

30分ほどで寝室の片付けを終えた俺は神野の家から持ってきたカメラを設置した。

俺は今から神野の代わりに動画を撮影する。

今まで神野と二人で動画撮影をしていたので一人での動画撮影には不安しかない。
俺には何も無いのだ。人に自慢できるような特技も自信も何も無い。

ただ、俺にはこれまで神野の動画撮影を手伝ってきた経験がある。
撮影する動画の内容は思い付いていないが、神野の弱り切った姿を見て何も行動しないなんて男が廃る。

そんな事を考えるのは柄ではないが、今はそんな気分なのだ。

視聴者が、そしてハピネス自身が面白いと思ってくれる動画を撮影してやる。

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