大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第7話 意味不明なお願い

信じ難い事実だが、俺は学校1の美少女である神野が大人気YouTuberのハピネスであることを知った。

ハピネスの変装から神野の姿に戻るところを目の前で見せられては反論の余地もない。

「気づくのが遅いっていうか、本当に神野がハピネスなのか?」
「今の見ましたよね? それでもまだ私がハピネスじゃないって思うんですか?」

そりゃあんなの見せられたら信じるしかないが、それにしたって見た目もテンションも違いすぎて神野とハピネスが同一人物だなんてすぐには信じるのは難しい。

学校ではいつも1人で寡黙でポーカーフェイスの神野が、家では天真爛漫な表情でYouTubeの撮影をしているとは学校中の生徒が思ってもいないだろう。

「そうか……。まさか神野がハピネスだったなんてな。それにしたって学校とYouTubeとで性格に差がありすぎないか?」
「さ、最初は何気なく変装して動画を撮ってたんですけど撮影の回数を重ねるにつれてどんどんハピネスとしての人格が出来上がってきてしまって……」

確かに芸能人でもキャラ設定ってのは重要だ。
YouTuberでも普通の女子高生として動画に登場するよりしっかりとしたキャラ設定があった方が人気が出るのだろう。

「なるほどな。あれ、もしかしてハピネスって名前、自分の名前から取ってるのか?」
「……そ、そうですけど」
「なるほどな。幸音の幸をとって、ハピネスか」
「な、何回も言わないでください。恥ずかしいじゃないですか……」

俺の前で紅潮させた顔は普段の神野からは想像出来ない表情だ。

そんな可愛らしい表情をじっと見ていると、確かに神野とハピネスの顔は似ている。いや、似ているも何も同一人物なんだが……。
神野がハピネスだと知ってしまえばむしろ何故今まで気が付かなかったのかという疑問を持つくらいだ。

まあ学校とYouTubeでのキャラの違いがあり過ぎて気が付かなかったのだろう。

学校では人形の様に静かに座っている神野が、自宅では「はぴるーん☆」なんて恥ずかしいこと言ってるなんて分かる訳がない。

おい俺、恥ずかしいとか言うなよ。キャラなんだから。

「というか今日の俺へのお願いってのはなんたったんだ? まさか俺がハピネス好きってことを知ってて喜ばせようとしてくれたって訳じゃないだろ?」
「そ、それも無くは無い……ような気もしなくは……ないですが……」
「何だって?」
「な、何でもありません。義堂さんへのお願いは一つだけです。そんなに難しいことではないので安心してください」
「難しくても俺なりに頑張るよ。なんでも言ってくれ。出来ることなら力になるから」

ハピネスからのお願いならどんなお願いであっても叶えてやりたい。

そんな思いで神野がお願いをしやすいように手助けしてやると神野は真剣な表情になり、俺はその表情に気圧され息を飲む。

「義堂さん。私の……、いえ。ハピネスの黒子になってください」
「――は?」

俺はハピネスからの意味不明なお願いに首を傾げた。

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