大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第6話 ハピネスはクラスメイト

俺は夢でも見ているのだろうか。

地面に座り込んで見上げているのは俺が愛してやまない大人気YouTuberのハピネス本人だ。

「大丈夫?」
「え、あ、はい。大丈夫です」

手を差し伸べられた俺はその手を握り立ち上がった。

ハピネスの手は幼児の様に小さくサラサラで、手汗をかいている俺の手を握らせるのが申し訳なく感じる。

そしてハピネスに手を借りて立ち上がった俺はあることに気が付く。

ハピネス小っさ。

ハピネスの身長が低いのは知っていたが、動画でしかハピネを見たことがない俺はもう少し大きいハピネスを想像していた。実物はこれほどまでに小さいのか。

何これ本当に現実? VRで見てる映像とかじゃなくて?

「え、あの、ハピネスさん……ですよね?」
「義堂くんならそんなこと聞かなくても分かるんじゃない?」

はい、分かります。俺の目の前にいる人物がハピネス以外の人に見える訳が無い。

俺はこの半年、暇な時間があればハピネスの動画を食い入る様に見ていた。
そんな俺がハピネスと他人を間違える訳が無い。

「ふふっ。なんでハピネスがこんなところに⁉︎ って顔してるね」
「そ、そりゃそうですよ。大好きなハピネスが目の前に……ってあれ? そういえばなんで俺の名前を知ってるんですか?」
「え、まだ気付いてないの?」
「気付いてないって何にですか? それに神野もいないし……」

ハピネスが神野の家に現れてから神野の姿が見えない。

どこへ行ったかは知らないがまさか神野がハピネスの知り合いだったとは驚いたな。
俺のハピネス好きを知った神野が俺をハピネスに会わせようとしてくれたってことなのか?

「ハピネスさんは神野の部屋を借りて撮影とかしてたんですか?」
「んーそう言う事じゃ無いんだけど……。義堂くん、一回あっち向いてくれない?」
「……? 分かりました」

なぜハピネスに背を向けなければならないのかは疑問だが、ハピネスのお願いを断るわけにもいかない。

俺は素直に後ろを向いた。

何やら物音がするが、ハピネスは一体何をしているのだろうか。

「もういいよ。こっち向いて」
「なんで一旦反対の方を……ってあれ、神野?」

振り返りながらハピネスに話しかけようとすると、俺の前には先ほどまで姿を消していた神野が現れた。

何が起きているか理解出来ず狐に摘まれた様な気分になる。

「どうですか? ハピネスに会えた感想は」
「いや、そりゃ腰を抜かすほど驚いたよ。まさか会えるだなんて思ってもないし。というかハピネスは?」
「さぁ。どこへ行ったのでしょうか」
「いや、俺は今後ろ向いてたから分からんけど」
「義堂さん、もう一回後ろの方を見ててもらえますか?」
「え、なんで?」
「なんでもです」

ハピネスにされたお願いと同じお願いをする神野。意味もわからず渋々後ろを向く。

すると何やらまた物音が聞こえ、5分程同じ方向を見つめたまま直立している。

「はい。またこっち向いてください」

神野の声を聞いて俺は再度神野の方を向く。

「え、やっぱりハピネスだ」
「そうだよ〜☆ ハピネスですっ‼︎」

なぜだ? 俺が後ろを向いている一瞬でなぜ2人が入れ替わる?
扉を開けた音などはしなかったし、この部屋から人の出入りはないはずだ。

だとしたらなぜ……。

「やっぱり悩んだ顔してるね。神野ちゃんがどこに行ったか知りたい?」
「そ、そりゃもちろん」
「分かった。じゃあ今から、神野ちゃんがどこにいったか教えるね」

そう言うとハピネスは徐に自分の顔に手を伸ばす。

そしてハピネスはコンタクトを外し始めた。
ハピネスの紫色の目はカラコンなのだから外せるのは当たり前だが何故カラコンを外す必要がある?

次にハピネスは髪に手を伸ばした。

何をするのかハピネスの行動に注目していると、ハピネスは髪の毛を引っ張った。

「え、ちょっと何やってるの……」

俺に驚く暇も与えず、ハピネスは髪の毛を引き剥がした。

ハピネスの髪はカツラだったようで、その下から黒い髪がさらりと飛び出してきてその姿に度肝を抜かれる。

「――え? か、神野?」
「気づくのが遅い。鈍感すぎです」

急に姿と声のトーンを変えたハピネスは紛れもなく学校1の美少女、神野だった。

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