大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第5話 一匹狼の住処

チョコチョコと歩く神野の後ろを歩き続けるが、特に会話もなく気まずい空気が流れている。

何か会話をしようかと考えるが、共通の話題などあるわけもなく俺の頭に思い浮かぶのはハピネスのことばかり。
もう何も考えないでおこうと頭の中を空にして神野の後ろを歩いていた。

神野の家はどこにあるんだろうか。今のところ俺の帰宅ルートと同じなんだが……。
そんなことを考えているうちに神野の家に到着した。

「着きました。ここが私の部屋です」
「お、ここか......ってここ俺が住んでるアパートじゃないか!?」

俺は思わず大声をあげていた。

神野が自宅に向かっていく方向は確かに俺の家と同じ方面だったが、まさか神野もこのアパートに住んでるのか?

「そうですね。私もこのアパートに住んでるので」

認めちゃったよ……。

てことは俺が住んでいるこのアパートに神野も住んでいるってことだな。

神野の家に近づくにつれて、俺の家から近いのか? とは考えていたが、まさか俺と同じアパートに住んでいるとは思いもしなかった。

というか、俺もよく気が付かなかったな。もう1年もこのアパートで暮らしているというのに。

「そうですねって神野は知ってたのか? 俺がここに住んでるって」
「当たり前じゃないですか。むしろ1年も同じアパートに住んでて、気が付かない人なんているんですか?」

はい、気づいていなかった人がここにいますごめんなさい。

そんなことは口に出せる訳もなく、「そ、そうだよなあ」と相槌を打った。

「でも俺、あんまり神野とすれ違ったこととか無いよな?」
「無いですけど私は良くあなたを見かけていましたよ。義堂さんと悠木さん、それに瓜生さんと紗倉さんの4人でここに遊びに来られていたのを見ていましたし。おかげで声をかけるのが遅れてしまいましたが……」
「ん? 最後の方がよく聞き取れなかったんだが」
「な、なんでもありません」

4人で歩いていれば1人で歩いているよりも目立ちやすい。俺が気づいていなくて神野が気が付いている理由はよく分かった。
というか、神野が隣の部屋に住んでるってことは俺がハピネスの動画を見て悶絶し、声にもならないような声を発していたことも知られているんじゃないか⁉︎

「あ、あの、大丈夫だった? 夜中に変な笑い声とか聞こえて相当気持ち悪かったんじゃない?」
「自覚があるだけましです。それじゃあ家の中に入りますね」

やはり俺の声は神野の部屋まで聞こえついたようで俺の顔は一気に熱を持つ。
しかし、神野は俺の心配を他所に淡々と部屋の中へ入っていくので、過ぎたことは気にしていても仕方がないと心を入れ替え神野に遅れないよう俺も神野の家にお邪魔した。

このアパートは俺が住み始めたときに新築物件として賃貸サイトに掲載されていたもので、住み始めてから1年が経過したとはいえとても綺麗な物件だ。

俺は親にお願いして必死こいて家具を揃えたが、神野の家にはそもそも物が少なく無機質という言葉がよく似合う。

棒を立てるタイプの芳香剤が置かれ、爽やかな香りが漂う玄関を通り越しリビングへと入る。

「義堂さん。今からリビングに入ります。リビングは私の生活スペースなのでリビングに入っても何も分からないと思いますが、恐らく義堂さんであれば寝室に入れば私があなたに声をかけた目的が分かると思いますので、あまり驚かないでください」

寝室……?

いや、寝室ってのはただ寝るためだけの部屋で、俺の家にもベッドと小さめのテレビが置いてあるくらいでやることは何もないのだが……。

え、寝室ってそやいう事⁉︎ ま、まさかそんな神野が⁉︎

実は夜の遊びを嗜む小悪魔だったって事⁉︎

え、なにこれやだ寝室入りたくないんだけど。

いや、本音言うと入りたい。

「それじゃあ開けます」

息を飲みながら扉を開ける神野の様子を見守る。

そして俺の視線は神野ではなく、開けられた扉の向こう側の部屋へと向けられた。

「……え、普通の部屋だしソファとイスしか置いてないんだけど、何ここ?」
「ここで待っててください」

そう言って神野は扉を閉め、待てと言われた俺は部屋の中を見渡す。

神野の寝室にはグレーの2人用と思われるソファと、その前にはテーブル、そして北欧風の緑色の小さいイスが置かれているのみ。

この部屋から何が分かると言うのだろうか。俺は神野の部屋に初めて入るんだぞ?

俺の部屋と間取りが一緒だとはいえ見覚えなんか……。

――あれ、このソファー、どこかで見たことあるな。

それにこの北欧風のイスも……。

どこで見た事があるんだ? 夢の中か?

毎日のようにこの光景を目にしているような……。


……………………。


……‼︎ ま、まさかっ⁉︎

そう思った瞬間、神野の部屋の扉が開き俺はそちらに顔を向ける。

「はぴる〜ん‼︎ いつもニコニコハピネスでーす☆」

俺は突然目の前に現れたハピネスに腰を抜かし、地面にへばりついた。

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