大人気YouTuberのクラスメイトから黒子に指名された件

穂村大樹

第2話 昼休みの隣人

「分かるか? ハピネスはな、視聴者全員にハピネスを振りまいてるんだよ」
「あーはい、分かったから。同じ話を何度も何度も何度も何度も繰り返すのはやめてくれ」
「確かにハピネスは可愛いけど、毎日その話聞かされてちゃ嫌にもなるわよ」

昼休み、俺は毎日一緒に昼飯を食べている一真と千花、郁奈の3人にハピネスを布教しようとしていた。
布教活動は俺がハピネスを好きになった半年前から続けて行っているが未だに身を結んではおらず、特に一真と郁奈の二人は俺のハピネス好きに好感を抱いていない。

特に郁奈は普段から少しキツめな口調で喋るところがあり、俺のメンタルは毎日少しずつ削られている。

腰まで到達しようかという長い髪は紫陽花の様に紫がかった色をしており、モデルと言われても違和感がないほど抜群のルックス。口を閉じてさえいれば誰もが認める美少女だ。

かろうじてハピネスの動画を視聴してくれている千花も俺が大ファンになった理由は理解してくれたようだが、千花自体がファンになるとまではいっていない。

「確かにすごく可愛いもんね。でもあんまり強要しちゃダメだよ」

幼馴染の千花は温厚な性格で面倒見がいい。栗色の髪に整った顔立ち、おっとりとした話し方はいつでも俺に癒しを与えてくれる。

俺の幼馴染にしては色々とスペックが高すぎるが俺にとっては第二の母親のような存在で、俺のハピネス好きを肯定してくれる大切な存在でもあった。

「ハピネスは俺の女神だからな。強要したくなるのも仕方がないだろ?」
「海翔がハピネスを好きなのはよーく理解してるから、毎日同じ話を繰り返すのはやめてくれ。好きになるどころかむしろ嫌いになりそうだわ」
「見る目がないなぁ。ハピネスの素晴らしさが理解出来ないなんて人生99%損してるぞ」
「馬鹿かお前は。海翔が休み時間の度にハピネスのことをわーわー騒ぐから海翔の事をYouTuber好きのオタクだって騒ぎ立てる奴もいるんだぞ? もっと気持ちを抑えて話してくれ」

一真の話は紛れもない事実である。

俺のハピネス好きはすでに他の生徒に知れ渡っており、オタクだなんだと騒がれている事くらい承知している。

だが、なぜハピネス愛を隠す必要がある? 俺にとってハピネスは女神と言っても過言ではない存在。気持ちを抑えて話すなど無理な話だ。

それに、恐らく俺のハピネス愛は学校1の美少女である神野にも知られている。
俺は昼休みに必ず教室の一番後ろの窓側に位置している一真の席と、その前の郁奈の席で4人で机を囲み弁当を食べるが、その横の席に座っているのが神野なのだ。

神野は毎日自分の席で一人黙々と弁当を食しているため、俺たちの会話は間違いなく神野の耳に届いている。それでも神野は顔色一つ変えることなく弁当を食べ続けている。
そのおかげで俺は神野の存在を気にすることなく、淡々と一真たちにハピネスの布教活動を行えているという訳だ。

俺の布教活動中に神野に見られる違和感と言えば、たまにむせて咳き込んでいることくらい。
神野は弁当を食べる速度も遅いし食べ物が喉に詰まって咳き込むとは考えづらいが、口が小さいので誤って食道ではなく気管の方に入ってしまいそうになることがあるのだろう。

学校1の美少女である神野にハピネスのことが好きであると聞かれて恥ずかしくないのだから、もう誰に聞かれたって恥ずかしいということは無い。
最早俺に怖いものなど存在しない。

「俺はもう、止められないぜ……」
「はいはい。もうそこらへんにしとけ」

一真には心底呆れられており、そのうち愛想を尽かされて友達関係を解消してくれと言い出されそうだ。
かと言って、俺からハピネス愛が消える訳も無く、その後も俺の布教活動は続くのだった。

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く