チート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!

もるもる(๑˙ϖ˙๑ )

第47話(罠に落ちた家族)

ガンガンッ!!

 夜遅くに僕の部屋の扉が叩かれたので、僕は目を覚ます。眠い目をこすりながら扉を開けると、そこにはカイゼルさんとウォルトさん、そしてリアが立っていた。

「お願い、アル!ヘンリーの居場所を探して!」
 リアが悲痛な顔をして僕の肩を掴んで揺らしてくるので、眠気が一気に吹き飛ぶ。

「ど、どうしたの?!」
「ヘンリーとお父様がいないの!!アル!探して!!」
 一分でも惜しいといった感じで、リアが詰め寄ってきたので、何も考えず頷いてしまう。

<エグゼキュート ディティールサーチ ワイドマップ ヘンリー・フォン・ヒルデガルド>
 僕が魔法を起動すると、僕の右目に周辺地図と共に赤い点に囲まれた黄色の点が展開される。

「ちょっと待って、何か敵性の高い人達に囲まれてる」
「っ!!!」
 リアが声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちる。

「それはどこだ?!」
 カイゼルさんが僕の肩を掴みいてくるので、北の方を指差す。

「なるほど、貴族街の方か」
「地図があれば正確な位置が分かるけど……」
「わかった。ウォルト頼む!私達は談話室に行っておく」
「あぁ、わかった」
「あぁ……ヘンリー、お父様……」
「まだ大丈夫だよ。みんなで何とかしよう」
 こんなに騒いでいるのに爆睡しているオスローを置いて、真っ白で血の気が抜けた顔を押さえて塞ぎ込んでいるリアを、元気付けるように声をかけながら談話室に向かう。

「持ってきたぞ。これだ」
 すぐに地図を持って降りてきたウォルトさんが、談話室の机に地図を広げる。地方都市アインツの内部がかなり詳細に書かれた大きい地図だ。

「ここに反応があるよ」
「やはりか……想定通りヨルムガリアの屋敷のようだ。しかも屋敷の中心部に近い所に監禁されている……か。アル君どれくらい敵がいるかわかるか?」
 僕がその地図の一点を指さすと、カイゼルさんがその一点を凝視ながら聞いてくる。

「明確な敵性反応は10人くらい。でもその屋敷に詰めている人は40人くらいかな。Cランク相当も10人くらいはいるみたいだ」
「……ちぃっ!となると救出は難しいな。ばれたら逆に逆手にとられて何をされるか分からん。ここは明日の昼に手薄になった所を救出するしかないだろうな」
 僕の情報にカイゼルさんが渋い顔をする。

「すまない。エストリア嬢、一刻も早く助けたい気持ちは分かるが、ここで短慮を起こして下手を打つと命にかかわる事態になる。現時点では、交渉材料とするつもりだろうから、命まで取られる可能性は低い。だから、まだご家族の身は安全だろう。明日に必ず救出するから信じて待っていてくれないか?」
 カイゼルさんがそう冷静に分析してリアを諭す。

「信じるわ。確かに今の私達がCランク10人。それ以外30人を相手に救出できるとは思えないから。でも明日、必ず何とか救出して頂戴!」
 まだ真っ白な顔をしているリアだが、それでも瞳に強い意志を取り戻して頷く。

「くれぐれも軽はずみな事は控えてくれ。ギリギリまでこちらが把握している事、動いている事を悟らせたくない。仮にも5州家の子家……バレれば逆にこっちが消されかねない状況になる可能性がある」
「えぇ、分かってるわ……」
 こうして突如発生した夜の作戦会議は終わり、僕はベッドに潜り込んだが、中々寝付けない。明日は別行動でとても難しい作戦ミッションをこなす事になるだろう。そうなると何より連携が大事になるけど、僕達は選抜戦に出るから連絡を取るなんて……

『だったら、遠話テレヴォイスができるようにすればいいのでは?』
 突然、僕の頭に眼鏡さんの声が響く。遠話テレヴォイスって?と聞いてみると、離れていても会話ができる魔法らしい。
『他にチャネルも被らなさそうなので、そんなに難しいものでもありませんよ。この世界ではそんな会話が飛んでいること自体ないでしょうから、盗聴の心配はありませんね。先日<負荷インクリーズ>の腕輪を作ったでしょう?あれの反対側にまだスロットがあるので、そこに遠話テレヴォイス魔宝石ジュエルを埋め込んで、魔導体コンダクターで繋ぐだけで出来ます』
「腕輪はみんなが持っているから、最終的な作業は明日になるね。じゃぁとりあえず遠話テレヴォイス魔宝石ジュエルを作っておこう。どうせ寝れそうにもないし」
 僕はそう言うと、遠話テレヴォイス魔宝石ジュエルを作るのに必要な宝石を生成しようと考える。

遠話テレヴォイスの魔法は支援魔法になるので、紫水晶アメジストあたりで大丈夫でしょう。龍爺さん、紫水晶アメジストのイメージを少年に』
『了解じゃ。ほれ、こんな感じの石じゃ』
 龍爺さんから紫水晶アメジストのイメージが僕の頭の中に流れ込んでくる。そのイメージに合わせて<エグゼキュート クリエイトストーン アメジスト>を発動させる。

 作り出した紫水晶アメジストを手に取って眺めながら、龍爺さんに大丈夫か確認すると、恐らく大丈夫じゃろうとの言葉を貰う。

 そして<エグゼキュート スプリットストーン>、<エグゼキュート ポリッシングストーン スフィア>で、小さな珠に加工する。

『さて、すでに<負荷インクリーズ>が消耗型なので、遠話テレヴォイスも消耗型で問題ないでしょう。魔法としては「みんなとTeams遠話をTelevoice!」ですね』
 眼鏡さんに魔法を教えてもらって、僕は透き通った紫色の珠を手の平に乗せながら、魔法を発動させる。

「<エグゼキュート エンチャント ジュエル>!みんなとTeams遠話をTelevoice!」
 僕の手の平の紫水晶アメジストの珠を中心に、魔法陣が描かれた後、紫水晶アメジストの珠に吸い込まれていく。

 紫水晶アメジストの珠の中を目を凝らしてよく見てみると、キチンと魔法陣が入っているのが見える。

 そして僕は自分の腕輪を外して、その裏側を確認する。確かに<負荷インクリーズ>の黒琥珀ジェット誘引アトラクト魔宝石ジュエルの反対側に何個か珠をはめられそうなスロットがあるのが確認できた。

 一番手前のスロットに遠話テレヴォイス魔宝石ジュエルをはめこみ、その魔宝石ジュエルに至る魔術回路サーキット魔導体コンダクターを引き、定着フィキシングの魔法をかけて定着させる。

「これで完成かな?」
『せめて一対ないとテストができませんが、多分大丈夫でしょう。使い方は<負荷インクリーズ>を発動する輪の外側にある輪をIに合わせると使えるようになるはずです』
 僕は続けて残り6つの遠話テレヴォイス魔宝石ジュエルを作る。そんな作業をしていると陽が昇り始めて雨戸から光が漏れ入ってくるのだった。

 そして再度、<ディティールサーチ>魔法を起動して状況を確認してみたが、ヨルムガリアの屋敷の警備も昨晩と対して変わっていなかった。春の選抜戦が始まるまでは動きがないのかもしれない。

 朝食の席でリアと顔を合わせたが、腫れぼったい目をしていた。この状況で寝れる訳もないかと思ったけど、瞳の力が強かったので少しは安心する。

 朝食を食べ終わった後、みんなで談話室に集まると、カイゼルさんが現状を説明した後に、今後の対策を話し始める。

「ツァーリがどういう手を使うかはわからないが、考えられる行動は以下の2つだ。一つ目は監禁したまま、生殺与奪できる立場であるという何らかの証拠を突き付けて脅すケース。二つ目は選抜戦の会場まで連れてきて、目に入る形で脅すケースだな」
 そう言ってみんなを見渡す。みんながわかっているといった表情をしていることを確認して続ける。 

「一つ目のメリットは奪還される心配が少ない事。デメリットは即効果を発揮できない事。連絡手段がないから、指示を出してから実際に行動するまでには時間が掛かってしまうだろう。この場合、連絡係をつぶす事で実行させないようにすることは出来るが、救出は難しくなるだろう。だが、聞いてきたツァーリの性格上、この選択肢は無い。なぜならば、からだ」
 つまらないを強調して、そこで一旦話を止めるカイゼルさん。

「対象、この場合エストリア嬢とアル君になると思うが、この二人の苦痛に満ちた顔と何もできないまま甚振られる状況シチュエーションが彼の望みだからだ。全く碌な趣味じゃないな」
 確かに僕が発端になっているし、リアは大事な仲間だから、その家族が人質に取られて、反撃などを封じられたら、カイゼルさんの言う状況シチュエーションになるだろう。

「そして二つ目だが、これは逆に目に見えた形で脅して即座に行動に移せる事。デメリットは奪還の危険性にだな。恐らく私達が監禁している事に気が付いていないと思っているし、Cランクの冒険者を雇っている事から奪還の危険性は低いと感じているはずだ。だからヨルムガリアの屋敷から学園までの道で、私とウォルトが……」
 そこまで言ってカイゼルさんは顎に手を当てて考え込む。

「攫われたのはエストリア嬢の父君と弟君。それをネタにして脅すとなると、アル君とエストリア嬢が選抜戦に出ている方が、直接何らかの形で脅せて効果的だ。そして、その方が隙が大きくなる……」
 カイゼルさんは指を鳴らして、キーナを注視する。

「すまない。散々練習を積んできたところを悪いんだが、選抜戦のオーダーを変更したい。キーナ嬢とエストリア嬢を交替させてくれないか?」
「え?!何で?」
「人質のカードを切るのは、間違いなく直接対決する時だ。その時に、家族を人質にとったエストリア嬢がいるといないでは、そのカードの有用性が天と地ほどの差が出てくる。そしてカードが有用であればあるほど、生まれる隙も大きくなるからだ」
 カイゼルさんがそう提案するとリアが不安げな声を上げる。今まで練習を重ねてきたキーナが外れるのはとても痛手になりそうだが、カイゼルさんのいう事はもっともだ。リアの家族を救出する可能性が上がる施策に異を唱える訳にはいかないだろう。みんなそれがわかっているから、誰も反対せずにカイゼルさんの言葉に頷く。

「別行動になるので本来は綿密な計画を立てて共有しなければならないのだが……相手の出方によって行動を変更する必要があるし、ソレの対策を練る時間も、伝える時間もないな」
 カイゼルさんが顎に手を当てながら困った顔で思案する。

「それ、僕に案があるんだけど……」
「ほぅ、何かね?」
 僕が挙手するとカイゼルさんがこっちを見てくる。

「えっとね。遠話テレヴォイスの機能を腕輪に付与エンチャントしようかと思っているんだけど」
遠話テレヴォイス?」
「うん。遠く離れた人と会話する魔法なんだ」
「……アル君。確かに、確かにそれがあれば有用だ。だがね、君には長距離間の意思疎通の重要性、とりわけ軍事における戦術的実行の際にどれほど有効かの基礎の基礎を教えないといけないようだ。だが、今の状況に対しては非常にありがたいし、四の五の言っていられないだろう」
 カイゼルさんがまたかと額を押さえながら天を仰ぐ。

「じゃぁ、みんな腕輪を貸してくれるかな」
 僕はみんなから腕輪を受け取ると自分の部屋に戻る。選抜戦まで、時間がないから急いで作業をしなくてはならない。
 みんなに待ってもらいながら急いで作業を終わらせて、再び談話室に戻る。みんなは僕が作業をしている間に、今後の段取りなどを相談していたようだ。

 そして遠話テレヴォイスの機能を追加した腕輪を着けて、機能するかテストしてみる。

「……問題ない。あぁ問題ないのだが!!」
「こ、これは、情報革命……になるほどの技術、流出したら危険……」
 複雑な表情をしながら叫ぶカイゼルさんと、興味津々に腕輪を見ながら呟くキーナ。

「で、では、気を取り直して。アル君がヘンリー君の居場所を確認し、動きがあったらこの遠話テレヴォイスを使って、屋敷前に伏せている私達に伝える。その際に、できれば護衛の数やランクも教えてくれるとありがたい。それからは状況に応じて行動だ」
 カイゼルさんが僕を見ながら指示をするので、僕は頷き、みんなと視線を合わせる

「絶対に、ツァーリのような者の思惑通りには進めさせない!選抜戦と救出作戦を成功させ、正々堂々とツァーリを打倒する!!」
「「「おーっ!!」」」
 カイゼルさんがそう宣言し、みんなで拳を突き上げて心を一つにするのだった。


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