報告:女騎士団長は馬鹿である
報告:反撃の狼煙はあげられた
「む……」
王城にある王国軍総司令部、その中でも特別な人間しか入ることのできない作戦会議室に俺達はいた。俺達といってもいるのはクローディーヌと俺だけだが。
ここに来るのは二回目、あの報告で上層部の人間に目を付けられた時以来だ。あのとき狂いだした歯車は、もう取り返しのつかないところまで来ている。まあ俺の人生において上手くいっている時の方が少ないかもしれない。
(しっかし悩んでいるな……。それもそうか。彼等にとって彼女の活躍はなんとしても阻止したい訳だからな)
今回クローディーヌが提出した提案書には一つ大きな特徴があった。それは作戦の指令に際し、第五騎士団と第一騎士団の合同作戦を提案したことである。
たった三百人でできることなどたかが知れている。それならば合同作戦を実施することでより大きな戦果を生み出そうというのである。
これには作戦司令部も悩むのは当然だ。規模が大きくなり、万が一成功すればクローディーヌの名声がまた上がってしまうかもしれない。かつての大戦で親父のセザールがどう扱われたのかを見れば、心配するのもよく分かる。
だが一方で合同作戦となれば、第七騎士団以外の騎士団にも恩賞を与えることができる。それは即ち、場合によっては第七騎士団の手柄をうまく王国軍全体の手柄へとすり替えることができるというわけだ。それはそれで、本部としては美味しい話である。
「……どうします、将軍?」
「むう、これは受け容れがたいな……」
お偉いさん方が小さな声で話し合っている。しかし俺はこういう話には常に敏感だ。いくら声を小さくしようが、わずかに漏れる声とその唇の動きで、ある程度中身が読み取れる。
話を要約すればこうだ。将軍側は勝つことが優先と考えているが、軍のもう一つの派閥である神官側は影響力を危険視している。そうした綱引きの中で、結局は妥協案に落ち着いた。なんともまあ、王国らしい。
将軍が居直って話す。
「第七騎士団長、話は分かった。しかし第一騎士団は現在別任務の準備中であり、それも重要案件である。したがって第五騎士団を協力に回そう。それでいかがか」
「はっ。ご配慮いただき光栄でございます。必ずや王国のお役に立ってみせます」
クローディーヌはそう言って頭を下げる。俺も合わせるように頭を下げた。
できればもう二度と来たくないものである。俺はそう願いながらクローディーヌと共に退出した。
「第五騎士団だけ?それじゃ大した戦力にもならないじゃないか」
兵営所に帰ってきて、すぐに隊長クラスを集めた会議を行った。そして結果を報告すると、一番はじめに口を開いたのが貴族のぼっちゃんであるフェルナンだった。
(しかしまあ二、三勝しただけでよくもまあ、ここまで言えたもんだ。それまで負け続けだったのはもう忘れたのか?)
俺は心の内で呆れながらも、フェルナンのいうことはある意味では正しいとも思っていた。第一騎士団は王国屈指の騎士団であり、質・量ともに十二騎士団の中ではトップクラスである。彼等の協力があれば戦闘は有利に進められることは間違いない。
だが俺もそれが通ると思うほど甘い考えは持っていなかった。
「第五騎士団……少し変わり種の騎士団ときいているけど……」
ドロテの言葉に、他の隊長達も「うーん」と呻る。おそらく誰もよく分かっていないのだろう。クローディーヌも俺が説明するまで良く知らない様子であった。
(しょうがない。事前に知らなすぎるのも向こう方に失礼だし、説明しておくか)
そう思って俺は持ってきていた資料を取り出し、三隊長に配る。クローディーヌには作戦の提案をしたときに既に渡している。
「これは……?」
「第五騎士団の兵種構成だ」
ダヴァガルに俺が伝える。三人はそれぞれ資料をペラペラとめくっていった。
「なんだこれは?これじゃ騎士団というよりは銃兵隊だな」
フェルナンが資料に目を通しながら言う。まさにその通りである。
第五騎士団はその構成が十二騎士団でも特に変わった一団である。団員の数は千人弱、第七騎士団を除けば最低クラスの人数だ。そしてその内で近接戦闘を行う兵士はなんと二百人ほどだ。うちの部隊と同レベルである。
では残りの団員は何をやっているのか。それは銃や移動砲台、特殊工作など特別な攻城戦や都市攻略戦に特化した技能を身につけている。
(ここに来る途中で、第五騎士団の団長に挨拶には行ったが……まあ随分と変わった男だったな)
伸びた長髪に丸眼鏡。着ている服はほこりまみれであり、とても貴族とは思えない。しかし家柄を調べてみるとこれはまた随分な家の出であり、俺じゃ逆立ちしても敵わない出自だった。
おそらく、あまりにも変わりすぎて扱いに困った家が軍部に出してしまったのだろう。副官の女性は普通そうな人だったから、多分彼女が苦労しているのだと思う。
(見るからにお世話してもらっているって感じだったからな。あれ)
しかしそうした部隊が生まれたのにも理由はある。それは前大戦に遡る。帝国の機工部隊に悩まされた関係で、それに対抗するべくとりあえず作られたという経緯があるらしい。だからその団は帝国の軍隊に似ており、それだけに王国の騎士団としてはあまり扱いが良くない。
しかし使いどころはあるにはあるので未だに廃団にはいたっていないみたいだ。いずれにせよ、俺からしてみればそれは利用するのに格好の部隊だった。
「しかしこんな戦力も乏しくて、秘術もあまり使えない連中がいても、足でまといになるだけじゃないか?俺達みたいに馬も持っていないみたいだし」
フェルナンが言う。俺達だってつい最近馬を奪うまで持っていなかったことを(以下略)。
だが彼の言うことはもっともであるし、それについても問題はなかった。
「どうやら副長さんには何か案があるみたいだな」
ダヴァガルがにやりと笑いながら此方を見てくる。その言葉で皆の視線が此方に向いてきた。クローディーヌもどこかうれしそうに此方を見ている。
(しょうがない。やりますか)
ここまで来て他人任せにしようなんて思わない。人に任せて生き延びられると思っていられるほど、俺は良い思いはしていない。あくまで自分の命は、自分で責任を取らなければならないのだ。
「ではこれからの一連の作戦で基本とする、その戦術から説明しよう」
俺はそう言って皆に別の資料を配る。俺が作った戦術プランだ。なるべくシンプルに、どんな馬鹿でも頭に入るように作った。
「第七騎士団と第五騎士団はこれより一つの大隊として扱う。仲違いも功績争いも無しだ。どこが欠けても作戦は破綻する。肝に銘じておいてくれ」
俺の言葉を聞きながら皆はそれぞれその案を読んでいく。
その表情からそれぞれの戸惑いが見て取れる。そりゃそうだ。俺だってここまで突拍子もないことを言われたら、きっと戸惑うだろう。
だがそれは相手にも言えることだ。
「副長殿」
「何だダヴァガル隊長」
「この突飛な作戦、その名前を教えてくださいよ」
ダヴァガルはすこし笑みを浮かべながら聞いてくる。少なくともこの男の感触は悪くないようだ。
「そうだな……」
正直、考えてなかった。だが名前があった方が後々便利だし伝えやすい。それに考えていなかったと言うのも癪だ。俺は咄嗟に名前を作る。
「作戦名は『電撃《エレキ・トゥリケ》』とする。稲妻より速く打撃を与え、敵の指揮系統を麻痺させる。その意味を込めてな」
反撃が、始まる。
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