修学旅行

ちゃび

第1話 水蓮女子高校

キーンコーンカーンコーン。
5限終了のチャイムが鳴った。
寒い日が続いていた12月のある日。
今日は珍しく暖かく、コートを着ていると汗ばむ気温だった。
ふと、窓の外に目をやると体育の準備をしている先生の姿が見える。

私は再び、バッグの中に隠してあるスマートフォンに目を向けた。
その時だった。

「ねぇねぇまりん!シドニーの自由行動!どこ行くか決めた??」
顔をあげると、身を乗り出して私を覗き込むクラスメイトの速水さやか(はやみさやか)の姿があった。
左手を机におき、右手に修学旅行のしおりを握り締めている。
陸上部に所属している彼女は、吊り目なのもあり、性格がキツそうに見えるが、こうやって話しているときは顔をくしゃくしゃにして笑うのでとても無邪気だ。

「もう〜さやか〜!驚かさないでよ〜!!」
「ごめんごめん笑。修学旅行までもう一週間なんだよぉ!コアラも見たいし、オペラもいいし、ビーチも有名だよね〜♪」
「コアラわたしも見たい!」
「見よ見よ!あ、オーストラリアは夏じゃん?夏服は用意したのぉ??」
「新しい夏服も欲いんだけど…あ、さやか今日部活休みじゃなかったっけ?夏服も売ってるいい店見つけたから、放課後買いに行きたい♪」
「いいね、いこいこ!、あとさ……」

私の名前は、彩木まりん(さいきまりん)。
高校2年生の17歳。
そう、いわゆる女子高生だ。
私たちが通っている私立水蓮女子高校は、少人数クラスによる行き届いた教育をモットーに小中高大とエスカレーターで進むことができるお嬢様学校だ。
そして、高校2年生の冬、語学学習のためオーストラリアに7日間の修学旅行がある。
はじめの5日間は、2人1組となり、ホストファミリーと過ごす。いわゆるホームステイだ。
そしてそのあとの2日間は基本的に自由行動が認められている。
そんな、一大イベントである修学旅行を一週間後に控え、クラス中その話題でいっぱいだった。
(オーストラリアかぁ。楽しみだな。。)
そんなことを考えていたら6限は終わり、さやかとショッピングモールへ向かった。

「ねぇねぇ、さやか!着替え終わったよ♪」
「どれどれ見せて〜!」

シャーっとカーテンが揺れて、ピンクのワンピースをまとった彼女が出てきた。
こげ茶の緩やかなウエーブがかったロングの髪にクリッとした目つきの可愛いらしい小ぶりな顔。
理想的なお椀型をしていると言える胸。
綺麗なくびれとよく褒められるウエスト。
小さなお尻から、すらっと伸びた色白の脚。

自然と、店内から視線が集まる。

「お~~!かわいぃぃ!!すごい似合ってる!」
「ありがとう♪」
「ちょっとおっぱいが見えてるのも嫌らしいじゃん〜!!うらやましぃ〜!(ニヤニヤ)」
「そんなことないよ〜!服のせいでしょ〜!!」
「もう〜照れちゃって〜!!顔、真っ赤だよぉ!」
「恥ずかしいょ〜じゃあこの服買うから外で待っててね。」

制服に着替え、試着したワンピースを手に抱え、レジに向かった。
12月にしては珍しく暖かい今日。店内は、気温調節がうまくいっていないのか暑かった。
店内を歩き回り、軽く汗ばんでいた2人は、ケーキ屋に入っていった。

「まりん、また紅茶しか飲まないの!?ここケーキ屋さんなんだよ!」
「いいのいいの。昨日の夜食べすぎちゃったからさ。さやかみたいに部活してないからね、わたしは。」

とりあえず二つ返事をした。
食べたくないわけなかった。昨日だって食べすぎてなんかない。
本当はお菓子が大好きだ。
店内のショーウィンドウに飾られたケーキ。
その1つ1つが競い合っているように輝いている。
厨房から、店内に充満する甘い匂い。
その全てが食欲を掻き立てる。
でも、食べるわけにはいかないのだ。だって、「あのとき」には戻りたくない。
絶対に。

「そっか〜食べないんだぁ。。わたしなんか、食べた分だけお肉ついちゃうよぉ〜!」
「あはは。でもさやかは運動してるし、何よりその大きなお尻がチャームポイントでしょっ!」
「やめてよぉ〜!ちょっとは気にしてるんだからぁ!お尻と太ももにあるお肉ががおっぱいにつけばなぁ。。」
「ふふ笑」
「あ〜ばかにした〜!」

なんて話していたら時間はあっという間に過ぎ、21時を時計が差していた。
2人はそれぞれの帰路についた。
高校になってはじめて話したのがさやかだった。それまで友達があまりいなかった私にとって、かけがえない親友だ。
いつも一緒にいて、同じ出来事を共有できる。
これからも同じことで笑いあってたい。
そんな気がした。

「ただいま〜」
玄関を開けると、お母さんの姿があった。
「おかえり〜!遅かったじゃない!夜ご飯はどうするの?」
典型的な中年太りのお母さん。父はいない。女手1つで私を育ててくれた。
「夜ご飯は食べたから大丈夫だよ!今日ね、さやかとオーストラリアに行くときの服買ってきたの。キャリーケースにつめないといけないから、お風呂は先入っちゃってね!」
お母さんは何かを言いかけた気がしたが、新しい服を買って気分の良かった私は一目散に階段を駆け上がり、自分の部屋に入った。
電気を付け、荷物を置く。綺麗に整えられていて、物静かな自室。

ぐ〜

お腹が鳴った。
とてもお腹はすいていた。昼ごはんを食べてから、紅茶しか口にしていない。
何か食べたい。。
でも、食べたらまた…。夜遅くにご飯を食べるのはよくない。よくない。
と言い聞かせ、キャリーケースに荷物を詰めはじめた。
夏のパジャマを入れようと押し入れを開くと、
母から中学のときに買ってもらったXLのジャージが出てきた。
広げてみると今なら私2人分入りそうだ。

(こんな太ってたんだ。私。。もうこんなには絶対なりたくない。。)

「わたしは昔、太っていた。」

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