第十六王子の建国記

克全

第143話父殺し

王太子殿下を瞬殺したアレクサンダー王子は、その遺体を魔法袋に保管した。
死んでしまったら、物と同じように魔法袋で保管する事が出来る。
瞬殺した御陰で、逃げた魔族に簡単に追い付くことが出来た。
そしてそこには、全ての元凶がいた。
「実の父を。仕えるべき主君を平気で殺すというのか」
「殺さねばならないように仕組んだ、全ての元凶である魔族がそれを口にするか」
「この人でなしが」
「魔族にその様な事を言われるいわれはない。それに元々人間は下劣で卑怯な生き物だよ」
魔族に何を言われようが、修羅の道を生きると決めたアレクサンダー王子が動揺する事はなかった。
民が安寧に暮らせる国を創り出す為に、王太子殿下に続いて国王陛下を殺すだけだ。
既に多くの兄弟を殺しているのだ。
今更その中に父が名を連ねたからと言って、涙を流して懺悔する訳にはいかない。
「おのれ、人間の分際で偉そうに」
「人間が偉そうなわけではない。単に魔族が人間より愚かで下等で卑怯なだけだ」
「何をしておる。やれ。殺すのだ」
魔族のリーダーは、生き残っている魔族に攻撃を命じたが、もはや戦力となる魔族はいなかった。
アレクサンダー王子のターンアンデットで遺体は全て昇天してしまっている。
傀儡子として使う人間は殺し尽くされてしまった。
だから当然憑依する事も出来ない。
肉体派の魔族は既に全滅している。
だから生き残っていた魔族も、リーダーの命令など無視して逃げようとした。
「逃げすはずがないだろう」
「「「「「ウギャァアァアァアァ」」」」」
断末魔の叫びを残して、全ての魔族が焼き滅ぼされた。
業火圧縮連弾の包囲網から逃れる事が出来ずに、滅殺されてしまった。
王子達と同じように、灰にされてしまった。
「役立たず共が」
「もはや御前だけだ」
「どうだ。取引をしないか」
「……」
「儂と手を組めば、この世界全てを支配出来るぞ」
「……面倒だ」
「なんだと」
「この国の民を背負うだけでも重過ぎるのに、世界全体などという重荷を背負いたいモノか」
「背負う必要などないだろう。好き勝手に支配すればいいだろう」
「本当に好き勝手に出来るのなら、だれが兄弟や父を殺すものか。人として、なさねばならぬ責任があるからこそ、断腸の思いでこの手を血に染めたのだ。ごたごた言わずに死にさらせ」
アレクサンダー王子は、魔族の言葉に踏ん切りをつけて、父王に業火圧縮連弾を叩きつけた。
本当は灰も残さず消し去り、自分の罪を眼にしないようにしたかった。
だがそうはいかない。
生き残った王家の一門や家臣達に、国王陛下と王太子殿下の遺体を見せ、自分が王位に就くのが正当だと示さねばならない。
これからも自分の父殺し兄殺しと直面し続けなければならなった。
この世界にいる魔族を全て滅ぼしたからと言って、何も終わっていなかった。

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