第十六王子の建国記

克全

第137話親衛隊

「遅くなって申し訳ありません。只今到着いたしました」
「御苦労」
「は」
アレクサンダー王子が後宮に入って四十八時間後に、親衛隊が後宮前に集結した。
僅か百騎とは言え、アレクサンダー王子が厳選した一騎当千の強者達だ。
「難民の方は、騎士団が引き継いだのだな」
「はい。昨日ボニオン魔境騎士団が到着しましたので、一日かけて引き継ぎを行い、何の問題も起こらないようにしたうえで、任せました」
「うむ、よくやった」
「有難き御言葉を賜り、恐悦至極でございます」
言葉通り、アレクサンダー王子に任された難民を見捨てる訳にはいかないので、ボニオン魔境騎士団が到着するまで、細心の注意を払って警備と統制を行っていた。
ボニオン魔境騎士団に引き継ぐことも考え、難民団内の自警組織設立に力を入れていた。
それでも、僅かな時間に全てを完璧に行う事など出来ず、死者を出さない事と餓死させない事が精一杯だった。
どれほどの強者達であろうと、僅か百騎で百万近い難民を護りきれる訳がないのだ。
それは、ボニオン魔境騎士団五千騎が引き継いでも同じだった。
全員を民生だけに費やしたとしても、一騎で二百人を纏めなければならない。
だが実際には、軍事や警察業務の方に人数が多く必要だ。
民事に使える人数など僅かな数でしかない。
魔族や他国、国内の有力貴族と戦う可能性もあった。
だから出来る限り、難民団の自警団や民生組織に自治を任せられるように、ボニオン魔境騎士団は動いていた。
「親衛隊には後宮に入り、坊壁と坊門を護ってもらう」
「承りました」
アレクサンダー王子は親衛隊に後宮の守備を任せる命令を下した。
これは非常に危険な行為だった。
国難の緊急時とは言え、男子禁制の後宮に百騎もの男性騎士を入れる事は、アレクサンダー王子を廃除したい者達には、絶好の攻撃材料だった。
もっとも、既にアレクサンダー王子、パトリック、トマーティン、ロジャーが後宮に入ってしまっているので、今更とも言えた。
この一事で、アレクサンダー王子がこの事件後に厳しい対応をする事が伺えた。
どのような事が起ころうとも、強権によって排除すると言う決意の表れでもあった。
「何事ですか」
「そうです。ここは男子禁制の後宮ですよ」
「アレクサンダー王子と近臣の方が入った事だけでも大問題ですのに、更に騎士団を入れるなど、ただでは済みませんよ」
アレクサンダー王子の母親が命懸けで後宮を護っている時も、権力闘争に明け暮れ、足を引っ張ってきた側室や妾が、アレクサンダー王子の足も引っ張ろうと、ことさら問題を表面化させようと騒ぎだした。
この四十八時間でアンデットが退治されたと安心し、今度は国王陛下や実家の権力を笠に着て、優位な立場を築こうと画策しだしたのだ。
「まだ魔族の手先が暗躍している。見つけ次第殺せ」
「は」
アレクサンダー王子の命令を受けて、親衛隊はその場で騒いでいる側室や妾、彼女らの仕えている女官を処刑した。

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