第十六王子の建国記

克全

第113話精神攻撃

「おのれ、憎々しい奴だ。この程度なの傷など、直ぐに治癒出来るが、これで頭や心臓を攻撃出来なくなった」
魔族は、近衛騎士隊長の身体に執着していた。
今迄魔族は、憑依した身体に執着した事などなかったが、王の地位を利用するために、王だけは大切にしていたが、それ以外の人間は使い捨てていた。
だが近衛騎士隊長の身体能力は、魔族の戦闘力を飛躍的に向上させた。
ずっと憑依能力だけで生きてきた魔族は、人間界に来て各種魔法を手に入れて、魔族の中でもある程度の評価を得ることが出来た。
ここで身体能力を手に入れることが出来れば、魔界でもそれなりの地位につくことが出来る。
何より、魔界からもっと強い魔族を召喚する事が出来るようになる。
「負けてなるモノか」
「ふん。命を奪う事は出来ないが、心を殺す事は出来るのだよ」
「近衛騎士団長の誇りにかけて、ここは通さん」
「愚か者が」
魔族は、近衛騎士隊長の身体を使い、圧倒的な身体能力を駆使して、近衛騎士団長の四肢を粉砕した。
両手首と両肘、両足首と両膝を粉砕骨折させた。
「うぎゃぁぁぁ」
「ウグゥゥゥゥ」
近衛騎士団長も心臓が停止しかねない激痛を感じたが、魔族も同じ痛みを受けていた。
四肢に八カ所もの粉砕骨折を受けて、受傷前と同じ精神力を保てる者は少ない。
既に一度、絶望的な実力差で骨を粉砕されているのだ。
今度も全力で対応しようとしたのに、魔族の憑依した近衛騎士隊長の攻撃に全く反応出来ずに、四肢八カ所を粉砕されてしまった。
近衛騎士団長にとっては、魔族に憑依されていると言う事は、ほとんど問題ではなかった。
自分の地位を脅かしていた、近衛騎士隊長に全く歯が立たない事が、心を絶望させる要因だった。
憑依されていなければ、身体強化されることもなく、これほどの差は生まれなかっただろう。
武器や防具の能力差で、互角以上の戦いが出来ただろう。
だが、魔族に力で、本来の三倍の能力を発揮する近衛騎士隊長は、ほぼ裸で戦っているのだ。
そんな相手に一蹴されて、近衛騎士団長の心は絶望に染められていった。
「まだ、だ。まだ、負けていない」
八カ所の鎧の損害は、自動修復機能で元通りになった。
粉砕骨折した骨も、圧し潰された肉も回復された。
近衛騎士団長は、再び立って戦いを挑んだ。
「ふん。愚か者が。まだ己の実力が分からぬか」
魔族も近衛騎士隊長の身体を修復し、再び攻撃態勢に入った。
「うぎゃぁぁぁ」
「ウグゥゥゥゥ」
近衛騎士団長は、先程と全く同じ場所を粉砕骨折させられた。
今度も全く歯が立たず、激痛に身を苛まれ、近衛騎士団長の心は壊れていった。

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