第十六王子の建国記

克全

第109話憤死

「死滅火炎弾」
デイヴィット筆頭魔導師は、自分が命名した最強最高の魔法を放った。
恥ずかしいネーミングだが、若かりし頃の恥ずかしい行いだった。
死を覚悟して羞恥心が失われた事と、若い近衛騎士の士気を高めるために、敢えて恥ずかしい魔法名を叫んでした。
デイヴィット筆頭魔導師は、身体中から限界まで魔力を絞り出した上に、詠唱で魔力を増幅してから高熱に転換した。
更にその火炎魔法を強化圧縮して、魔族の心臓目掛けて放ったのだ。
「笑止。その程度の魔法で、我に傷一つ付けられるモノか。黒龍火炎」
魔族は、デイヴィット筆頭魔導師の魔法をあざ笑いながら、先程と同じ魔法を唱えて放った。
魔族も魔法名を叫ぶ必要などないのだが、魔法名を聞いた時に人間が恐怖して、絶望の表情を浮かべるのが面白くて、何時の間にか魔法名を叫ぶようになっていた。
そしてそのネーミングも、陳腐で単純なモノになっていった。
「死滅火炎弾」は、「黒龍火炎」の炎の中を突き進み、魔族の心臓を焼き貫くと思われたが、徐々に圧倒的な高熱の黒龍火炎にすり減らされ、途中で消滅してしまった。
「そんな馬鹿な」
「ふ、ふ、ふ。その程度の魔力で、我を斃せると思っていたのか。愚か者が」
「ぐぬぅぅぅ」
「サッサと死ね」
魔族は、もう魔法を使わず、デイヴィット筆頭魔導師に近づいて、剣で刺し貫こうとした。
「ベン。後は頼んだぞ」
「なに」
「自爆撃」
「ぬぁぉぉぉぉ」
デイヴィット筆頭魔導師は、死と引き換えの奥の手を使った。
冒険者時代に、愛する人を護りたくて、友と創り出した魔法だった、
彼女が友の方を選んで王妃となっても、愛と忠誠と友情を捧げ、最悪の日に備えて常に改良してきた魔法だった。
圧倒的な強さを誇った魔族も、驚きの声をあげるほどの破壊力だった。
強力な防御力を見せた、近衛騎士隊長の防具も、破壊するほどだった。
それは当然だろう。
開発した当初は、ドラゴンダンジョンで愛する人を護るためのモノだったのだ。
ドラゴンを斃すことが大前提だった。
ドラゴンの素材で作られた、近衛騎士隊長の鎧が耐えきれなかったのは当然だ。
鎧を破壊し、魔族の身体を貫通すると思われた「自爆撃」だったが、魔族には何の影響も与えていない。
(なんだと)
デイヴィット筆頭魔導師には、言葉を発する力すら残されていなかった。
「フハハハハハ、愚か者。その程度の魔法で、我に傷一つ付ける事など出来ん」
死に向かって朦朧とする意識の中で、魔族の哄笑がデイヴィット筆頭魔導師を絶望の淵に叩き込んだ。
自分が生涯をかけて研鑽した魔法が、魔族に傷一つ付けることが出来なかった。
愛する人は殺され、友の命も風前の灯火だった。
デイヴィット筆頭魔導師は、何の救いもない状態で息絶えた。

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