第十六王子の建国記

克全

第107話憑依

「ぬぉぉぉぉl」
「隊長」
「慌てるな。御前は王妃殿下を御助けるのだ」
「はい」
「他の者は、隊長が負けた時には、直ぐに攻撃出来るようにしておけ」
「「「「「そんな」」」」」
「隊長が憑依されたら、皆殺しになるぞ」
「「「「「・・・・・」」」」」
「構えろ」
デイヴィット筆頭魔導師は、心底恐怖していた。
完璧な防御を施していた心算だったが、魔族の実力は、想定を大幅に上回っていた。
隊長を始めとする近衛騎士には、十分な防御魔法をかけていた心算だったが、それはデイヴィット筆頭魔導師の過信だった。
デイヴィット筆頭魔導師の魔法は、魔族には通じなかった。
正妃殿下を確保する為に、女性騎士を帯同していたのは、デイヴィット筆頭魔導師らしい心配りだったが、王宮内の駆け引きに馴れ、実戦で一番大事な危険感知能力を失っていたのだ。
「死んでおられます」
「しかたない。御前も隊長の監視に周れ」
「はい」
ドラゴンダンジョンで有名をはせた正妃殿下であったが、あっけない死を迎えてしまった。
誰にも秘密にしていたが、ドラゴンダンジョンで若い頃の国王陛下を庇って負った傷が下で、死病に取り付かれていたのだ。
己の寿命が短い事で、気高かった正妃殿下の心が、子を想う母性に傾いてしまっていたのだ。
だがそんな事は、国王陛下を始め、腹を痛めて産んだ王子も、他の側室が産んだ王子も知らない事だった。
誰にも話さなかったのが、正妃殿下のプライドだったのか、子供達を護るために虚勢であったのか、正妃殿下が死んだ今では誰にも分からない事だった。
分かっているのは、全盛時の正妃殿下であれば、魔族も易々と憑依出来なかった事だけだった。
だがそれを知っているのは、正妃殿下に憑依した魔族だけだった。
「ぬぉぉぉぉ」
「慌てるな。隊長は必至で戦っている。負けた時にだけ攻撃するのだ」
「・・・・・」
近衛騎士達は、誰も返事が出来なかった。
俺ほど強かった隊長が、今まで浮かべた事のない苦悶の表情で、剣を床の大理石に突き刺していた。
魔族に身体を奪われまいと必死で抵抗しているのが、誰の眼にも明らかだった。
「ぎゃゃぁあぁぉぉぉぉ」
「覚悟しろ。隊長を狙え」
「そんな」
「殺さねば自分が死ぬことになるぞ。いや、それだけではすまん。国王陛下が憑依されるような事になったら、愛する家族や友が、魔族の生贄にされてしまうのだぞ。覚悟を決めて隊長を殺すのだ」
「「「「「「はい」」」」」
デイヴィット筆頭魔導師の檄を受けて、近衛騎士達は奮い立った。
誰にだって愛する者がいて、命を賭けても守りたいモノがある。
それが人なのか物なのか生きざまなのかは人それぞれだが、大切なモノの為に命を賭ける。

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