第十六王子の建国記

克全

第99話王位

「殿下、王を名乗られないのですか」
「ああ、時期尚早だろう」
アレクサンダー王子の為に、ネッツェ王国を属国にしたマーティンは、アレクサンダー王子に王を名乗ること献策していた。
「理由を御聞きしていいですか」
「今余が王を名乗ったら、王妃殿下や王太子殿下はもちろん、父王陛下であろうと、ボニオン公爵領の返還を命じてくるだろう」
「はい。私もその通りだと思いますが、その時は戦えば宜しいのではありませんか」
「だがその時には、親兄弟で、血で血を洗う戦いをしなければならなくなる」
「先に罠を仕掛けてきたのは王妃殿下でございます」
「それはその通りだけど、その為に民を巻き込むわけにはいかない」
「しかしながら今ならば、ジョージ陛下もエドワード王太子殿下も、殿下に戦いを挑めないのではありませんか」
「そうだな。ドラゴンダンジョン騎士団がイーゼム王国に外征中で、国内貴族家の結束も破綻している。これが全て誰かの罠なら、余が独立宣言したくなるのも敵の罠かもしれぬ」
「そんな。私が敵に操られていると申されるのですか」
「マーティンが誰にも操られていないのは、余が一番知っている。だが、王位宣言を献策したくなるように、誘導されている可能性はある。まあ、王位宣言も、数ある策の一つでしかないだろうがな」
「では、殿下が王位に就かれようと、見送られようと、敵の罠に誘導されていると申されるのですか」
「余やマーティンが何をやろうと、それに対応する策を、先に考えている可能性がある」
「どうせ敵に先を読まれてしまっているのなら、王位に成られてはどうですかと申したら、私は愚か者になってしまうのでしょうね」
「そうだな。王に成ってしまったら、苦しい立場で敵と戦わなければならない」
「ネッツェ王国をほぼ全土占領したと言うのに、殿下に王位に就いて頂けないとは、情けない限りでございます」
「ネッツェ王国の領地など、何時でも手放すよ。ボニオン魔境とサウスボニオン魔境こそ、余と余の民の生命線だ。絶対に手放す訳にはいかないのだ」
「いっそ、どこか隣国の魔境を占領しましょうか」
「駄目だ! 大義名分のない、不正義な戦を起こす事は絶対に許さん」
「申し訳ありません。愚かな事を申しました」
「他の者達にも厳しく申しておく。我らから戦を仕掛けてはならん。分かったか」
「「「「「は」」」」」
アレクサンダー王子を王位に就けようと言う動きは、表向きなくなったが、隠れて動く者はいた。
そんな者でも、アレクサンダー王子の命令に表立って逆らうことはなく、ネッツェ王国の離接国の中で、悪政を敷いている国を探し、王子の正義感を刺激しようとしていた。

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