第十六王子の建国記

克全

第85話爪長魔族

「やらせはせん!」
ベン大将軍に襲い掛かる爪長魔族に対して、ベン大将軍に回復してもらった騎士達が、一斉の背後から斬りかかった。
身体強化魔法により、瞬発力を高められた騎士達は、通常では考えられない速さで斬りかかった。
身体強化魔法により、攻撃力を高められた一撃は、普通の騎士が相手なら、フルアーマープレートですら叩き壊す破壊力を秘めていた。
だがその一撃も、爪長魔族に届かなければ意味がなかった。
爪長魔族は身体能力に特化した魔族なのだろう。
魔法による迎撃もしなければ、魔法による反撃もしなかった。
魔獣を超える身体能力で騎士達の攻撃を避けて、長く伸びた爪を振るって反撃した。
爪長魔族の攻撃が、騎士達を切り裂くかと思われたその瞬間、爪長魔族の避けられたと思われた火炎魔法が、爪長魔族の死角から叩きつけられた。
そうなのだ。
ベン大将軍は、火炎魔法を遠隔操作していたのだ。
自由自在に動き回る火炎魔法が、爪長魔族に襲い掛かる。
爪長魔族と火炎魔法の攻防は、並みの騎士が加われるような生半可なモノではない。
下手に攻撃に加わったら、ベン大将軍の足を引っ張ることになる。
そう考えた騎士達は、考える前に後ろに下がった。
本能的な行動なのか、それとも王都魔境で得た反射なのか、ベン大将軍の邪魔になることはなかった。
だが何も出来ないと言うのは情けなさすぎる。
何とか支援攻撃を行いたい。
だが遠巻きにして矢を射るのは、味方の流れ矢を当てる危険がある。
そこで爪長魔族の攻撃圏外から、騎士槍で突くことを考えた。
騎馬突撃の勢いを乗せ、爪長魔族の爪撃距離の外から突きを入れられたら、全く危険を犯さずに、ベン大将軍の邪魔になる事もなく、援護が出来ると考えたのだ。
だがそれは大きな間違いだった。
身体能力に優れ、魔族の突出した魔力が爪に集約された爪長魔族の爪撃は、魔獣の骨や爪で作られた騎士槍を易々と斬り落とした!
しかも瞬足の速さで騎士との距離を詰め、一撃必殺の爪撃を振るったのだ。
「「「「「ギャァー」」」」」
「回復」
ベン大将軍は、騎士達を見捨てることが出来なかった。
火炎魔法を操り、爪長魔族を牽制すると同時に、回復魔法を使って騎士達を死の淵から救い出した。
隙ありとは言わなかったが、爪長魔族には絶好の機会に見えた。
牽制攻撃を仕掛け、回復魔法まで使ったベン大将軍には、これ以上の余力はないと直感したのだろう。
一魔の魔族が左腕に火炎魔法を受けて、高熱によって一瞬で左腕を焼失させたが、左腕と引き換えに必殺の間合いに近づくことに成功した。
爪長魔族の爪撃は、狙い通りにベン大将軍の心臓に向けて吸い込まれていった!

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