第十六王子の建国記

克全

第84話斬り込み

「防御に徹しろ!」
「何事でございますか」
「魔族が斬り込んでくる」
「なんですって!」
「竜が襲ってくる想定で護れ」
「はい!」
ベン大将軍が細やかな探査魔法を使っていたので、魔族の奇襲を事前に察知することが出来た。
だがベン大将軍は、敵陣への魔法攻撃を止めなかった。
それは敵に適切な被害を与えていると感じたからだ。
今迄正体を隠していた魔族が、王都に攻め寄せる前に現れたことは、追い詰めていることが出来た証だ。
伝説では魔力に富んでいると言われる魔族が、ここで急に近接戦を挑んできたという事は、遠距離魔法攻撃を嫌ったという事だ。
そう判断したベン大将軍は、魔法袋の中に蓄えている膨大な魔石や魔晶石を、全て使ってでも魔法攻撃に徹すると決断していた。
「攻撃力強化。防御力強化。魔法壁。瞬発力強化。攻撃反射」
そう決断したベン大将軍は、魔力を惜しむことなく支援魔法と身体強化魔法を、自分の直卒部隊にかけた。
「「「「「ギャァー」」」」」
「回復」
重ね掛けできる支援魔法と身体強化魔法を、全てかけ終えた丁度その時に、魔族が襲い掛かってきた。
長く伸びた爪を振るい、王都魔境産の魔獣革鎧で全身を包んだ直卒騎士を、まるで紙を切り裂くように、楽々と斬り裂いたのだ。
だがここで支援魔法と身体強化魔法が生きてきた。
王都魔境での実戦訓練と狩りが生きてきた。
盾と鎧は簡単に引き裂かれたが、生身の身体に魔族の爪が届くまでに、一瞬の遅れが生じた。
その一瞬の時間を生かして、とっさに身体を攻撃から遠ざける方向に捻ることが出来た。
御陰で即死を免れ、重体で済ませることが出来た。
そして重体で済ませることが出来たから、ベン将軍からの回復魔法で全快することが出来たのだ。
長爪魔族の攻撃は的確だった。
指揮官がいる部隊を特定し、全方位から五百を超える魔族が襲い掛かるという、圧倒的な飽和攻撃を行う事で、一気にベン大将軍を確実に討取ろうとしたのだ。
だがベン大将軍の支援魔法と身体強化魔法は、爪長魔族の想定を大幅に上回るモノだった。
さらに二百を超える重体の味方を、一瞬で完全回復させることも、爪長魔族の想定を大幅に上回るモノだった。
しかもその上に、濃密に圧縮して白く見えるまでに高熱にした火炎魔法を、同時に千個以上創り出すなど、考えもしないことだった。
その火炎魔法を、襲い掛かる爪長魔族の隙を突いて迎え撃つなど、人間を馬鹿にしている魔族が想定できることではなかった。
大半の爪長魔族が一撃で即死させられた。
だが中には、身体能力の飛び抜けた爪長魔族がいた。
ベン大将軍の火炎魔法を上手く避けて、一気に距離を詰め、必殺の爪撃を振るってきた!

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