第十六王子の建国記

克全

第83話魔族

当初十二百騎隊の突撃は、大きな戦果を挙げた。
エステ王国軍の外縁部にいた部隊は、何の抵抗も出来ずに打ち倒されていった。
魔境やダンジョンで戦い慣れている王都騎士団は、確実に止めを刺していく。
捕虜に取り身代金を手に入れる戦い方ではなく、魔獣や魔蟲に不覚をとらないように、確実に息の根を止めるのだ。
そうしておかないと、後ろから奇襲を受ける事があるからだ。
ここに大貴族や重臣関係者の、欲深い指揮官がいたら、こういう戦い方は出来なかっただろう。
いや、そもそも危険な突撃など絶対に行わなかっただろう。
この突撃に併せてベン大将軍は、エステ王国軍の重要防御拠点に、三撃目四撃目の大魔法を放っている。
他の百騎隊は遠距離魔法を引き続き放つ隊もあれば、魔力が尽きたのか魔力を温存したのか分からないが、エステ王国軍軍に近づいて、弓射を始める隊も現れた。
だがここでエステ王国軍から信じられない者達が現れた!
魔族だ。
伝説の魔族が現れたのだ!
しかもエステ王国軍の味方をして、破竹の勢いでエステ王国軍を討ち斃す、十二百騎隊に襲いかかったのだ。
魔獣のような莫大な魔力を有している。
魔獣と違って人型をしている。
魔獣と違って思考力を有している。
だからこそ背後から奇襲して、指揮官の百騎長から狙ったのだ。
「撤退! 撤退しろ!」
だが十二百騎隊の生き残りも歴戦の者達だった。
直ぐに不利と判断して、態勢を立て直すために、生き残った騎士長の指示で、エステ王国軍の陣内から逃げ出した。
「伝令!」
「は!」
「エステ王国軍に伝説の魔族あり。しかしながら魔獣と変わらず。慌てることなく強敵を囲んで確実に狩れ!」
「は!」
伝令第三部隊十二騎は、驚愕の内容にも驚く騒ぐことなく、冷静に任務を遂行すべく駆けた。
ベン大将軍も内心では大いに驚いてはいたが、戦闘に影響が出るような動揺ではなかった。
長年魔境やダンジョンで戦ってきたベン大将軍は、想定外には慣れていたのだ。
いや、慣れることが出来なければ、生き残れない厳しい戦場だったのだ。
ベン大将軍は、探査魔法で十二百騎隊に生き残りがいる事を知っていたので、撤退支援のために強力な魔法を放ち続けた。
優秀な探査魔法使いが所属する百騎隊も、魔力を惜しまず支援の攻撃魔法を放った。
中には命綱である魔石や魔晶石から魔力を補給してでも、強力な魔法を放って撤退を支援する百騎隊もあった。
だが大半の百騎隊には、それほど優秀な探査魔法使いがおらず、今まで通りの遠距離攻撃や中距離攻撃を続けるのだった。
いや、徐々に魔力が尽きて、接近して弓射による攻撃に切り替える百騎隊が増えてきた。
中には斬り込みを行おうとする部隊まで現れていた。
伝令が間に合えば斬り込みを中止するだろうが、戦況は刻々と動いていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品