第十六王子の建国記

克全

第79話舌戦

「いくつか条件があります」
「慮外者! 国王陛下に対し奉り、条件を出すとは何事か!」
ジョージ国王は喚く宮中伯の言葉を無視した。
「どう言う条件だ」
「この決闘をよい機会として、王宮に蔓延る不忠者や臆病者を皆殺しにさせていただきたい」
「なるほど。ここにいる口舌の徒や、偉そうに騎士団幹部に修まりながら、卑怯にも実戦に赴かない騎士を退治してくれると言うのだな」
「はい。いかがでしょうか」
「認めよう」
ベン男爵の言葉で騒然となっていた謁見場が、ジョージ国王の言葉で再び凍り付いた。
ジョージ国王自身が、宮中伯や文官を口舌の徒と認め、王都騎士団幹部を臆病者と認めたのだ。
何より恐ろしかったのは、ベン男爵の決闘願を認めた事だった。
歳をとり現役を引いたとはいえ、冒険者として竜を退治した不世出の英雄なのだ。
いや、騎士団副団長としては現役バリバリで、対人戦闘ならいまだに人外の強さなのだ。
「陛下、どうかそれは御許し下さいませ! ベン男爵! 私が言い過ぎた。どうか許してくれ!」
「陛下、二つ目の願いですが」
「陛下、どうか、どうか、御許し下さい。ベン男爵、貴君からも口添えしてくれ!」
「うるさい」
ジョージ国王が手で合図を示すと、王太子が無言で剣を振り、宮中伯の首をはねた。
「「「「「きゃぁ~」」」」」
斬り落とされた斬り口から血が噴き出し、斬った王太子はもちろん、ジョージ国王もベン男爵も返り血を浴びで真っ赤になっていく。
だが三人とも微動だにしない。
「二つ目はなんだ」
「アゼス魔境を含める全魔境から、魔獣を狩って兵糧や軍資金にする許可を頂きたい」
「認めよう。三つめは」
「王都騎士団を鍛え直したいので、私を王都騎士団長に任じ、エステ王国軍迎撃に使わせていただきたい」
「全王都騎士団の指揮権を与えろと言うのか?」
「決闘に出てもらう騎士は全王都騎士団から選びますが、指揮下に置かせていただくのは八個騎士団中の四個騎士団で大丈夫です」
「ベンが迎撃に向かってくれるのなら、エステ王国方面は大丈夫だとは思うが、万が一王都が襲われるような状況になった時、残りの四個騎士団で民を護り切れると思っているのか?」
「万が一王都が敵に包囲されるような状況になれば、王都の民も武器を手に取って立ち上がってくれるでしょう」
「ふむ」
「王都の堅牢な城壁を利用して籠城をするのなら、騎士や冒険者のような武勇は必要ありません。高所から石を落としたり、石弓を準備して引き金を引いたりするだけで十分です。鎧を装備し騎馬に乗って戦う訓練をした騎士達は、城外で縦横無尽に戦ってこそ、その真価を発揮します」
「ふむ。各騎士団長はどう考える」
「ベン男爵の言う通りです」
「さよう。家柄と縁故と賄賂で成り上がった卑怯者は、ベン男爵が成敗してくれるから、残った真っ当な騎士なら、ベン男爵の意見に文句は言わんと思います」
八人の騎士団長と同じく八人の副騎士団長の中には、実力と人格を兼ね備えた立派な騎士もいる。
そんな者達は、ベン男爵の言を支持した。
だが実力を越えた、分不相応な地位についている者達は、決闘の事を考えて真っ青になっている。
何か逃げ出す言い訳を考えようとするも、返り血を浴びて真っ赤に染まった国王陛下と王太子殿下に対して、下手な言い訳は即死につながると何も言えないでいた。

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