第十六王子の建国記

克全

第61話判決

「はてさて、思いがけない結果になりましたな」
「爺が陰で動いてくれたからだ」
「何の事でございますか?」
「爺が父王陛下や正妃殿下に直談判してくれたのだろう」
「御存知でしたか」
「それくらいは分かるさ。正妃殿下が本気で敵対されていたら、母上様を人質に取ってでも潰しにかかって来られたはずだ」
「左様でございます」
「それがなかったという事は、御自身やアンドルー王子に寄生する、恥知らずな貴族士族を排除する好機と考えられたのだろう」
「はい。それと本当の親心を発揮されたのでしょう」
「アンドルー王子を立派な貴族に育て上げる事か?」
「はい。王太子殿下が王位に就かれた暁には、王家王国を護る立派な藩屏となられるように、喝を入れられたでしょう」
「確かにこのまま愚かで欲深い側近の自由にさせていたら、藩屏どころか王位を狙って反乱を扇動しかねかったな」
「あのような小者には、それほどの勇気はなかったと思いますが、王家王国を腐らす可能性はございました」
「それで正妃殿下は、自身の派閥の勢力を減退させることを覚悟で、大鉈を振るわれたのだな」
「全ては殿下が成し遂げられたことでございます」
「ボニオン公爵家を筆頭とした、反王家派や貴族派の勢力に打撃を与えたことか?」
「はい。アゼス魔境からの一連の事件で、結束していた反王家派と貴族派が、同時に大きく勢力を落としていたことで、正妃殿下も身綺麗にする余裕を持たれました」
「それが今回の一連の判決と人事に現れたという事だな」
「はい」
今回の提訴の結論としては、ボニオン公爵家は改易となり、一族一門の主だった者は処刑された。
陪臣士族も主だった者が処刑され、家族は犯罪者奴隷として魔境や鉱山に送られることになった。
もちろん切っ掛けになった奴隷商人などの賄賂を贈っていた者達は、一切の家財を王家王国に没収され、当主と主だった者は処刑され、家族は犯罪者奴隷にされた。
今まで自分達が罪のない民に行っていたことを、今度は自分達が受けることになったのだ。
因果応報とはよく言ったものだ。
そして賄賂を受け取っていたアンドルー王子の配下は、ネッツェ王国に内通していたという判決を受けて、処刑されることになった。
ボニオン公爵家がネッツェ王国と内通していたのは、送り込まれていた軍事政治顧問団を逮捕自供させたことで明らかだった。
その軍事政治顧問団と結託して、王家王国の民や財を私していた商人達から賄賂を受け取り、彼らの罪をもみ消そうとしたのだから、ネッツェ王国とも通謀していたという論だった。
アンドルー王子の配下の実家や一門も反論したのだが、商人がネッツェ王国と通謀している事と、今後もネッツェ王国とアンドルー王子を操り、私利私欲を貪ろうとしていたことを自供したので、罪を免れることは出来なかった。
問題は反論したことだった。
反論したことで、彼らもネッツェ王国と通謀していたと疑われたのだ。
彼らが反論したことで審理が長引き、余を英雄視する国民は、ボニオン公爵家とアンドルー王子一派を売国奴と言う噂を国内中に広めていた。
賄賂を受け取ったアンドルー王子一派の実家は、貴族社会で孤立していった。
いや、王国商人組合から敵視され、王国内の流通から排除され、経済活動が不可能になった。
これが致命傷となり、完全に没落することになった。

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