第十六王子の建国記

克全

第56話占領1

「公爵、もはや言い訳は通じないぞ」
「無礼者が! 下賤な腹から生まれた卑しい血筋が高貴な余に触れるではない」
「やれやれ、馬鹿には何を言っても無駄だな」
「なに! 下賤な生まれの卑しい御前が余を馬鹿にするとは許せん」
「許せなければどうするというのだ。サウスボニオンの民のように、碌な装備も与えず、魔境に放り込むのか?それとも買収宿に売り払い、遊興費の足しにするのか?」
「下賤な者は、高貴な者に奉仕するための生まれたのだ。魔境で死ぬまで働くのも、売春宿で死ぬまで働くのも、当然の事だ!」
「高貴な生まれなどない!」
「馬鹿め! だから貴様は卑しい生まれなのだ。母親が下賤な生まれだから、王侯貴族の本質が分かっていないのだ!」
「王侯貴族の本質は、民を魔獣から守ることにある。自ら魔獣を管理せず、民を犠牲にして魔境から利益を上げようとする者に、王侯貴族を名乗る資格はない!」
「ふん! そんな事は大昔の建前だ! 今は高貴なる者の為に卑しき生まれの者が魔境に入る時代だ!」
「さて、ボニオン公爵閣下はこのように仰っておられるが、ネッツェ王国から政治顧問軍事顧問として派遣された方々も同意見なのかな!」
余はボニオン公爵の居城攻略にあたり、一切容赦しなかった。
城内には数人の魔法使いもおれば、腕利きの護衛兵もいるだろう。
同じアリステラ王国の公爵家を、アリステラ王国の王子が攻撃するとなれば、それなりの手続きや根回しが必要になる。
戦いを始める作法も厳格に決められている。
戦いを始めてからも同じだ。
だがそれを一切無視する為に、ボニオン公爵家を売国奴に仕立て上げたのだ。
城の外から白銀級麻痺魔法を一回放ち、次いで白銀級探知魔法で探った。
情けないと言うべきか、それとも当然と言うべきか、誰一人意識を保っていなかった。
余と爺は兵士や使用人の捕縛は民に任せて、一気に城の最奥まで駆けて行き、公爵とその一族を確保した。
そこには明らかにアリステラ王国人とは違う人間が数多くいた。
そこで麻痺から覚める前に、白銀級自白魔法を使って真実を聞き出した。
ボニオン公爵本人はもちろん、一族や重臣団、ネッツェ王国から派遣されていた政治顧問軍事顧問からも、真実を聞き出していた。
それなのに、いや、それだからこそ、ボニオン公爵は建前を捨てて本音を白状したのだ。
だがそれは絶対許されない事だ。
そんな事を言えば、ボニオン公爵家が自主独立する事はもちろん、内乱を起こしてアリステラ王国の王家に成り代わることも不可能になる。
本当は余に無理矢理自白させられたと言わねばならない。
ネッツェ王国から派遣された者達も、ボニオン公爵がそう言うと思っていた。
だがボニオン公爵は、ネッツェ王国が想定していたよりもはるかに馬鹿だった。
まあ馬鹿だからこそ、ネッツェ王国の口車に乗ったともいえる

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