第十六王子の建国記

克全

第43話ボニオン公爵家騎士団3

「転進」
騎士長の判断は的確だった。
自分がブラッディタイガーの気配を見逃したことで、これ以上の偵察は不可能と判断したのだろう。
自分の能力の限界を冷静に判断し、手柄や名誉よりも部隊の安全を図る。
そして何より、今のボニオン魔境が自分の手に負えない事を本隊に報告する。
これほどの騎士が、ボニオン公爵家に仕えている事が不思議でもある。
だが家族や領民を護る義務のある騎士なら、正義の為に他の領民を助けた結果、自分の護るべき領民が奴隷に落とされたとしたら、それは立派な領主と言えるのだろうか。
公爵家の不正を正す責任があるのは、内部の家臣ではなく、王家王国の責任だろう。
それと、これは今直ぐやらねばならないな。
「ロジャー、あいつらに気付かれないように、逃げた馬を確保しろ」
「承りました」
何故か分からないが、ブラッディポイズンスパイダーとブラッディタイガーは、騎士だけを襲い軍馬を襲わなかった。
主を失った軍馬は恐慌状態となり、魔境の中に逃げ出してしまった。
騎士長も他の騎士も、貴重で高価な騎士用に訓練された軍馬を探しに行きたかったのだろうが、隊列を崩すことは死につながるので、行くに行けなかったのだろう。
余にとってみても、よく訓練された騎士用軍馬は、御金を出せば必ず買えると言うモノではないので、確保出来るのなら何を置いても手に入れておきたい。
一頭目の軍馬は、既に魔獣の餌食になっている可能が高いが、二頭目だけでも手に入れておきたい。
騎士長は帰路を急いでいる。
危険を覚悟で、ブラッディポイズンスパイダーに襲われた場所に再び入っていった。
さっきは最後尾が襲われたから、今度襲われるのは騎士長の可能性が高い。
自分の命だけを優先するなら、配下と場所を入れ替えればいい。
対面を気にするなら、一番危険な先頭行くと言えばいい。
だが騎士長は順番を入れ替えず、最後尾についた。
殺したくない高潔な騎士だ。
だがボニオン公爵家騎士団と戦うことになるのなら、真っ先に殺しておいた方がいい騎士でもある。
余や余の近習衆の相手にはならないが、領民が蜂起した場合は、最も危険な敵になるかもしれない。
騎士長本人は領民を殺すのが嫌だったとしても、公爵や騎士団長に命じられたら、内心の想いを押し殺して命令に従うしかないだろう。
さて、どうするべきだ?
殺しておくべきか?
それとも見逃すか?
「あの騎士達を捕虜にする」
「「は!」」
爺とパトリックは、余の考えを一言で理解してくれたのだろう。
異論も疑問もなく、騎士達を捕虜にすべく動き出してくれた。

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