第十六王子の建国記

克全

第40話ボニオン魔境での仕込み

余達は往路で通った村をもう一度通ってボニオン魔境に戻った。
パトリックとロジャーと合流し、互いの状況を話し合った。
余と爺の失策に対しては、自分達も気付かなかったと言ってくれたが、全ては余の不明である。
魔境に匿っている猟師達と捕虜達のことが気懸りだったが、暗黙の了解で私刑の許可を出した手前、余が確認しに行くわけにはいかなかった。
そんな事をすれば余の介入が露見してしまう。
だが食料を分け与える必要もあるので、パトリックとロジャーに状況確認に行ってもらった。
帰ってきた二人の話では、捕虜の九割が逃げようとして魔獣に殺されたことになっていた。
猟師達には一人の犠牲者も出ていなかったので、縄で縛ったまま処刑したのだろう。
ただ人間の死体が放つ死臭や血の匂いが魔獣を集めてしまうので、分かれるときに指示していた予備の集合場所に移動していたという事だった。
いくらパトリックとロジャーが強力な魔獣を誘導していたとはいえ、銀級以下の魔獣までは全て管理できないから、何百人もの死体があれば遠くからでも集まってきてしまう。
だがそれだけの死体があれば、魔獣達も満腹になって暫くは大人しくしているだろう。
それに死体を争って死傷する肉食魔獣も多く出るだろうから、深手を負った肉食魔獣の中には、他の肉食魔獣の餌になるモノもいるだろう。
「余達の誰かが見守ってやらなくても大丈夫か?」
「何の問題もないように思われます」
「何故だ、幾ら数百体の死体をあるとは言っても、ボニオン魔境の全ての魔獣が満腹になったわけではあるまい」
「まず猟師達の能力がそれなりに高い事があります」
「それは余も知っている」
「死んだ下役人や公爵領の猟師や冒険者から装備を回収していましたから、殿下が見られた時より格段に武具と防具がよくなっております」
「なるほど」
「それと何よりも大きかったのは、予備の集合場所に私とロジャーの気配を残して来たことでございます」
「わざと小便をしたりしたのか?」
「はい」
「何故だ。その所為で公爵家の忍者に悟られる可能性があるぞ!」
「いくら忍者とは言え、人間が感じられる私達の気配はそこにしかありませんから、追撃は不可能でございます」
「では何故そのような事をした?」
「強力な魔獣を近づかせないためでございます」
「なるほど! 一日中パトリックとロジャーに追い回された魔獣達は、二人の気配がするところには近づかないという事だな」
「はい」
「では安心して休むとするか」
「「「は」」」
とは言っても四人同時に眠るわけにはいかない。
一人が見張りをしている間に、三人が眠るのだ。
余と爺は既に交代で眠っていたが、パトリックとロジャーの二人は、余達が戻るまで不眠不休で魔獣達を追い回してくれていた。
だから最初に余が見張りの当番を二時間務め、次に爺が二時間見張りの当番を務める。
三番目に四時間熟睡したパトリックが二時間見張りを務め、最後に二時間をロジャーが見張りを務める。
今回の状況では、最も体力が残っている者から見張りをすることにしたのだった。
そして夜が開けてから、公爵家騎士団との戦いが始まることになった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品