第十六王子の建国記

克全

第15話家族会議

「陛下、御決断ください」
「まあまて、アレク」
「しかしながら陛下」
「アレク、陛下には王国の民を護る責任があるのだ」
王太子殿下の言われることは十分理解している。
理解した上で、あえて申し上げているのだ。
まあ王太子殿下もその事は理解されているのだろうが。
「それは分かっておりますが、この好機を逃せばもっと被害を広げてしまいます」
「公爵の野心は昔から分かっていた。だから、公妹達を側妃に迎え王子を設け、その王子を公爵家の養嗣子に送ることで、王位継承権を上げることで懐柔する心算だったのだ」
「ですが逆にそれが野心を増長させることになってしまいました」
「アレク、親子とは言え陛下に対して失礼だろう」
「王太子殿下、直言せずに何が親子です。時には厳しい事を言ってこそ親子ではありませんか」
「アレクの真心はよく理解しておる。だが確実に勝てる確証と、謀叛を証明する確たる証拠がなければ動けん。いや、両方がそろっていたとしても、民の犠牲が多く出るのなら、我慢するのが王の度量と言うモノだ」
父王陛下の申されることはもっともなのだが、余は今が好機だと思うのだ。
今回の家族会議には、父王陛下と王妃殿下、独立していない王族、つまりは王子とその後見人だけが列席を許された内々のモノだ。
このような王族でも選ばれた者しか参加しない会議に、王家の出身でもない女性の王妃殿下が参加している訳は、その武勇と智謀にある。
父王陛下がまだ若かりし頃、内政改革を推し進められる祖父王陛下が、父王陛下の魔境実践訓練要員に高名な冒険者を指名されたのだ。
そしてその要員の中に王妃殿下が入っておられた。
もちろん王侯貴族や士族は冒険者の起用に猛反対した。
特に武芸に秀でた騎士団の猛者達は、日頃から王都魔境とダンジョンで任務に励み、己の腕に自信があったので激烈に反対した。
結果、武芸大会を開いてそれぞれの腕を競うことになったのだが、圧倒的な強さで優勝されたのが王妃殿下なのだ。
いや、上位入賞者はことごとく冒険者に占められ、金と名門の看板で団長職を得ていた高位貴族は、一人も冒険者に勝てなかった。
愚直に修練していた士族の中には、冒険者に勝てる者もいたが、それは僅かだった。
それほど王国騎士団が行う魔境での実践訓練は、形骸化してしまっていたのだ。
それに比べて生活のかかっている冒険者は、命を賭けて戦っていた。
そして何より魔境とダンジョンのレベル問題があった。
王国が拡大発展し、未開の地を開拓するに従い、創成期には最悪の魔境であった王都魔境をよりも、更に凶悪な魔獣が闊歩する魔境が発見されたのだ。
そんな魔境の中でも特に凶悪な魔獣が住むのが、俗にドラゴンダンジョンと呼ばれる場所であった。
普通に多くの竜種が闊歩する魔境で、四六時中四方八方に注意を払い、王都魔境ではダンジョン最奥部に住むような魔獣を、魔境の外周部で狩らねばならないのだ。
祖父王陛下の命で、ドラゴンダンジョンでの実践訓練を行われた父王陛下は、命懸けの訓練の中で王妃殿下と恋に落ちられた。
本来なら絶対認められないはずの恋だ。
黙認されたとしても、愛妃どころか愛妾が精々だっただろう。
だが父王陛下の願いに祖父王陛下が英断を下された。
正妃殿下を病弱で子孫を残せそうになかった王従兄の養女に押し込み、建前上王族にしてしまったのだ。
しかもドラゴンダンジョンで父王陛下の実践訓練を補佐した冒険者はもちろん、武芸大会で騎士団員を打ち負かした冒険者まで騎士や士爵に取り立てて新たな騎士団を創設し、王国軍の実戦闘力を著しく向上なされた。
後々この一連の英断の御陰でと言うか、それとも悪用したと言うべきか、父王陛下は余の母親を愛妃に向かえると言う挙に出た。
だがそれほどの英断を下された祖父王陛下でも、冒険者で新たに創設した騎士団を王都に常駐させることはできなかった。
そんな事をすれば、名門意識で凝り固まった貴族や士族の離反や謀叛を勃発させたかもしれない。
それともし旧来の騎士団に冒険者出身の騎士を配属すれば、名門出身騎士が冒険者出身騎士を謀殺する事件が起きた可能性が高い。
特に公衆の面前で冒険者に打ち負かされた、団長級の高位貴族の報復は凄惨なモノになっただろう。
だからこそ冒険者出身の騎士や士爵で新規の騎士団を創設され、それまで代官所預だったドラゴンダンジョンを騎士団預かりになされたのだ。
王侯貴族や士族に不評であったこの政策は、民からは圧倒的な賛美を持って受け入れられた。
どのような出自であろうとも、武勇さえ秀でているのなら騎士に成れると、大々的に実行したのだから。
だが騎士とは言っても知行地を与えられた訳ではない。
名誉は与えられたが、収入は自分で稼がなければならない。
騎士に必要な装備や諸々の費用、後継者の訓練や装備に必要な費用まで、全て己の才覚で稼がなければならない。
もっとも今まで冒険者として国や領主に納めていた税金が免除されるから、冒険者出身騎士に損はないのだが。
だがこの処置が貴族士族の不満を抑えた面もある。
同時に表向き士族の家格に現れない差別も生じさせている。
名門や譜代と言われる、先祖代々の知行地を治める士族。
扶持士族と言われる現物の金銭や食料を支給される士族。
そして冒険者士族と言われる知行地もなく扶持も支給されない士族。
祖父王陛下は王家王国を色々と改革さなれたが、改革したことで生じる軋轢や障害もあった。
父王陛下はそれも引き受けて政治を行われている。
そしてそんな経緯があるからこそ、王妃殿下は女でありながら父王陛下の盟友として王族会議に参加されておられ、ドラゴンダンジョン騎士団と言うこの国最強と噂される騎士団の力を背景にされておられる。
そうでなければとうに暗殺されておられただろう。
いや、王妃殿下なら、独力でも暗躍する王侯貴族を撃退されたかもしれない。
「陛下」
忍者頭が陛下に何か耳打ちする。
彼も父王陛下の盟友の一人だ。
年をとってもドラゴンダンジョンで鍛え上げた技に衰えはないのだろう。
「アゼス代官とタルボット宮中伯が証言した謀叛人の調べが終わった」
「どうだったのですか!」
第五王子の後見人が勢い込んで聞いてしまう。
「不埒者! 陛下に直接話しかけるなど不遜も甚だしい。貴殿も謀叛に加担していたのか!?」
後見人の分際で父王陛下に直接質問するなど、日頃から父王陛下を蔑ろにしていた証拠だ。
「なぁ?! いくら第二王子殿下でも、その言いようはあまりでございましょう」
「黙れ! 日頃から父王陛下に対する叛意がなければ、このような場で陛下に不遜な言動などできぬ」
「く」
「貴殿の血縁の多くが今回の謀叛に加担しておる」
「まだ証拠が出ておりません」
「アゼス代官とタルボット宮中伯の証言と、証拠の帳簿が出ておるではないか」
第二王子殿下は、父王陛下や王太子殿下に成り代わり、汚れ役を務める御気持ちなのか?
その役は余が務めようと思っていたのだが。
まあ余があまり出過ぎると、王位を狙って名を上げようとしていると曲解し、失脚させようと暗躍する者が出てくるかもしれない。
もしかしたら、王太子殿下と第二王子殿下も、その余が王位を狙っている場合を考慮しておられるのかもしれない。
ここは大人しくしておこう。
「それは全てボニオン公爵家を陥れようとする罠でございます」
「どこの誰が、どのような理由で、そのような罠を仕掛ける必要がある」
「アレクサンダー殿下でございます。アレクサンダー殿下は、陛下の御政道に反対し、自ら一家を興そうとなされておられました。」
「そうです。マイケル王子殿下のボニオン公爵家への婿入りを邪魔しようとして、このような罠を仕掛けたのです」
「そうです。全ては王家とボニオン公爵家の仲を裂こうとする、アレクサンダー殿下の謀略でございます」
やれやれ、ボニオン公爵家の血を引く三人の王子後見人は、余に全ての罪を擦り付けて、自分達は生き残る心算か。
だがこれがこの逆襲が通じないとは言い切れなし。
父王陛下が内乱を嫌われるのなら、ボニオン公爵家との駆け引きで、余を犠牲にする可能性もある。
父王陛下はどんな決断を下されるのか。

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