前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

第52話

サライダオアシスの水精霊は恐怖を感じていた。
王城地区の火竜の気配が強大になっていたのだ。
火竜が子孫を残そうと試行錯誤しているのは分かっていた。
だが数は増えても、火竜に匹敵する子が産まれないので安心していた。
ところが急に、火竜ほどではないが、力有る個体が産まれ始めた。

身体強化した人間を種にする事で、強いドラゴニュートが産まれているのだと推測出来た。
恐ろしい事だった。
このままでは、この安住の地を奪い返されるかもしれないと、心から恐怖した。
だから手を打つ事にした。

(カチュア。
カチュア。
早くアシュラムと契りを結びなさい。
早く子を儲けるのです)

「ですが精霊様。
それでは火竜退治を諦めるのですか?」

(諦めるのではありません。
強い子が必要なのです。
火竜に負けない強い人の子が必要なのです。
アシュラムも水精霊の強い加護を受けています。
カチュアとアシュラムの子供なら、もっと強く水精霊の力を引き出せます)

水精霊はカチュアとアシュラムの子を求めていた。
潔癖過ぎるモノが多いサライダオアシスの水精霊だったが、中には心の広いモノもいた。
だから微生物だけは産まれ、水鳥が羽を休め水を飲むことが出来ていた。
そんな水精霊の意識が、火竜が強大化する事で、他の潔癖過ぎる水精霊の意識を変えていった。

潔癖過ぎる水精霊は、高山の清浄な湖にしか住めなかった。
数を増やす事も出来なかった。
広い湖に住みたいと心から思っていた。
だが広い湖沼には、多くの水草や生物が住んでいた。
潔癖な性格の水精霊には、それは我慢出来ない事だった。

そんな時に、水精霊と強い親和性を持つ水乙女が現れた。
初代の水乙女だった。
彼女と共感する事で強い力を得た水精霊は、砂漠地帯にオアシスを創り出し、自分達の楽園とした。
そこに山間部の水精霊が集まり、徐々に広いオアシスとなっていった。

最初火竜はオアシスが出来た事を喜んだ。
獲物の少ない砂漠や荒野に、食糧となる獲物が増えると考えたのだ。
最初はその通りだった。
火竜はオアシスの水精霊と共存していると思っていた。
だがある時、オアシスに近づく動物を襲おうとした時、水精霊が火竜を攻撃したのだ。
火竜は激怒した。

砂漠は長年火竜の縄張りだった。
オアシスを出来るのを許したのは、餌を増やすためだった。
なのに狩りの邪魔をする。
許せることではなかった。
オアシスを干上がらせてやると心に誓った。

だが時機を逸していた。
多くの水精霊が集まり、水乙女と多くの人間の祈りを手に入れた水精霊は、火竜を撃退するだけの力を手に入れていたのだ。
そんないきさつがあり、サライダオアシスの水精霊は、火竜とは相容れない関係だった。

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